要素詰めこみすぎ「キョトン顔」の深キョンドラマ「隣の家族は青く見える」(TVふうーん録)

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 あれ? テレビドラマ界がなんだかわちゃわちゃしている。主要人物も、ネットで話題になりそうなテーマもこれでもかと詰め込む。検索に引っかかれば御の字的な設定の作品が目白押しだ。いろいろな人の無様で愛おしい生きざまは見たいけれど、あまりに詰め込み過ぎで疲弊しちゃう。その中でも、特に取り上げるテーマが多すぎるのが「隣の家族は青く見える」である。

 老眼の人は見にくいとは思うが、絵に描いた主要人物とテーマを見てほしい。背景の異なる人々がコーポラティブハウスなるオサレ集合住宅に住み、それぞれの抱える問題に対峙するというドラマだが、テーマ過積載にもほどがある。人物と背景を簡単に説明しよう。

 主役は、不妊治療を始めた深田恭子・松山ケンイチ夫婦。深キョンは相変わらずのキョトン顔で、35歳の設定。松ケンは根本的には思いやりのある優しい夫だが、時折、驚愕の無神経も発揮するハイブリッド仕様。

 そして、夫の野間口徹の失業を隠す割に、他家への詮索と干渉が激しい専業主婦・真飛聖の一家。娘が二人、唯一の子持ち世帯だ。

 さらに、事故死した前妻との間に息子がいる平山浩行と、子供はいらない主義の高橋メアリージュンのカップルがいる。高橋に内緒にしていた息子を引き取ることで婚約解消&破局寸前。

 もう一組、ゲイであることを隠して生きてきた一級建築士・眞島秀和と、転がり込んできた北村匠海のゲイカップルだ。若くて可愛い北村にアウティングされ、次第に翻弄されていく眞島。

 ある程度成熟した無関心と、適度な協調性が問われる集合住宅で、住む人の世帯構成とマインドがここまで違うと作為的。しかも各世帯が抱える悩みを、共有して解決していくっつうのは甘すぎやしないか。深キョンと松ケン、北村が善人すぎて、しゃらくさいし。

 また、実家の人間も絡んでくる。子作りを熱く奨励してくる義母(高畑淳子)や不妊治療に偏見をもつ実母(原日出子)まで。たぶんキャラもテーマもエピソードも引き算が必要なのに、掛け算しちゃった感じだ。

 例えば「悩みがない幸せな家庭ほど人の不幸に無神経」と考えれば、野間口は失業させなくてもよかったのでは? 「子供がいない人生を選んだ人が幸せ」な姿を見せたいなら、平山に隠し子はいらなかったのでは? 「平穏に暮らす普通のゲイ」を描けばいいのでは? 多様性を訴える割に、その根っこに前近代的な家族礼賛が透けて見えるのが敗因かもしれないなぁ。

 もうひとつ気になるのは、母という生き物が全員厄介に描かれている点。真飛・高畑・原があまりにステレオタイプな母親像にされている。母が責められる構造がここまで強調されると、キツイよね、世の中の母は。

 ネットで反応よさげなエピソード&ド定番トラブルを表面的に明るく朗らかにまとめちゃったら、記憶に残りにくい。逆に、私が記憶している数少ないことわざも脳内で大渋滞。「虻蜂(あぶはち)取らず」「二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず」「船頭多くして船山に上る」。そんな印象。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年2月22日号掲載

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