語っているようで沈黙を選んでいる 異色のヒロイン石原さとみ「アンナチュラル」第6話

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宍戸に翻弄される久部……?

 さて、久部は引き続き、ミコトとの距離を縮めつつある。ついに「三澄さん」から「ミコトさん」と名前で呼ぶようになるくだりはひたすら久部がいじらしく、法医学ミステリーという枠組みなんか吹っ飛んでしまい、あらっ、私が観ているのはラブコメだったかしら?! と思ってしまうほど、ときめきの詰まったシーンだった。

 しかし本作はラブコメではない。ラブコメと法医学とミステリーを内包した、人間を描くドラマだ。久部は、週刊ジャーナル編集部の末次(池田鉄洋)の俗っぽさに対抗するように、ひとりで事件の真相を追うため、フリー記者の宍戸理一(北村有起哉)に接触する。うまく行ったように見えるが、まだ若い久部は海千山千の宍戸にいいように泳がされ、最終的には、UDIラボに潜入したスパイ状態であることが家族に知られたらどうなるか……と脅しをかけられてしまう。
 
 北村有起哉は長いこと演劇の世界を中心に活動してきた俳優であり、古典戯曲から、最新の海外戯曲翻訳公演まで多彩にこなしてきた実績を持つ。世界の裏表、美しさ醜さを知り尽くしたようなタフネスを持つ独特の風貌が、すれっからしの図太いフリー記者としての説得力を増している。単なる「俗物」ではない、もう一癖も二癖もありそうな登場人物として、今後の展開が楽しみだ。久部のまだ幼い正義感が、宍戸につぶされないように願う。

 先ほど私は「彼女が本当に言いたいこと、わかってほしいことを、ミコトはまだ何一つ話していない」と書いたが、それは久部も同じなのかもしれない。「自分が本当にしたいこと、やりたいことを久部はまだ何一つ見つけていない」と言える。だが、着実に芽は育ちつつある。久部はミコトに興味を抱き、いつかその心の扉をノックするだろう。同じように、久部も多くの大人たちとの出会いを通して、自分の生きる道を主体的に獲得できる日が、きっと来る。

(西野由季子)

2018年2月22日掲載

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