見た目も中身も見事に女装「志尊淳」に学ぶLGBT 「女子的生活」(TVふうーん録)

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 俳優の女装で完成度の高さに唸ったのは中村倫也(ともや)だ。「お義父さんと呼ばせて」で女装趣味の息子を演じたときは衝撃を受けた。思わずため息も出た。はぁ、可愛い、と。ところが、倫也をあっさりと超える女装が登場した。「女子的生活」で主役を演じる志尊淳である。可憐な顔立ちと、女子よりも女子力の高い立ち居振る舞いに驚いた。賞賛したいのは外見だけではない。

 志尊が演じるのは、男性に生まれたが、女性装がしたい、おしゃれで可愛い女子として生きていきたい男性だ。恋愛対象は女性。性別違和で、あえて分類するならばトランスジェンダー。難解と思いがちだが、自分の立ち位置と生き方で世間に迎合しないと決意した男性の日常を淡々と演じる。

「ちょっとよくわからないわ」と思う人は、志尊の家に転がり込んできた同級生の町田啓太を踏み台にしてほしい。彼は単純な男性だ。初回で志尊に対して、疑問と質問をぶつける。かなり無礼で無神経なのだが、初回特典として志尊は丁寧に解説してやる。その割に、「女装=男の自分は恋愛対象」との勘違い発言で、志尊から怒鳴られたりして。どんな言動が無神経なのか、町田を通して学ぶといい。

 町田は男臭さを醸し出しているが、イケメンなのがちと残念。ここにブスな男を入れておけば構図としてわかりやすいのに。しかも理解と吸収が早そうなので、「町田が優しくていい男」で終わっちゃう危険性も。同級生の女装と性的嗜好をすんなり迅速に受容する男なんて稀だと思うんだけど。

 ま、それはさておき。志尊の周りの女子たちも、いい味を出している。性格設定にリアリティと説得力があって「ああ、こういう女子いるよね~」と納得した。

 会社の同僚で、体がまさに標準的なMサイズの玉井詩織。普通を憂う割に、秀でるための努力はしないタイプか。信念や魂胆があからさまな女子に敵意を抱き、陰で悪口吐きまくり。こういう女子、私は大好きだ。

 志尊が合コンで遭遇したオーガニック信奉女子の小芝風花は、勝気で頑固でこれまたいい。食べ物や洋服の原材料にうるさくて、主張がウザイ。その割に、出会ったばかりの志尊とラブホへ直行。セックスの最中には目をかっ開いて、相手を観察するような女だ。こういう女子も、大好きだ。

 このドラマ、ぜひ男性に観てほしい。LGBTに縁がなく、理解もない男性に。女性に理想を抱きがち・押しつけがちな男性に。女子的生活というか女子的思想を学ぶのに、いい機会だと思う。志尊の言葉や行動は、女性が普段イヤだと感じることや違和感を代弁しているような気もする。NHKに苦情ぶつけてくるような頭の固い老人は観なくていい。多様性を学べる余白もないだろうし、余生も短いからな。無駄だ。

 テレビドラマでのLGBTは色物扱いや、犯罪や不運・不幸の当事者にされがちだった。奇をてらわず日常を描いてほしいと常日頃思っていたので、今、心をがっちり捕縛されておる。でも、どうして全4回に? 短くない? 志尊が多忙?

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年1月25日号掲載

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