北朝鮮の「お尋ね船」を釈放… 日本のお粗末な制裁に元「国連捜査官」が警告

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北朝鮮制裁が「骨抜き」の実態――古川勝久(下)

 経済制裁を科されているにもかかわらず、なぜ北朝鮮はアメリカを驚かす兵器の数々を開発することができるのか。元「国連捜査官」の古川勝久氏が、骨抜きにされている制裁の実態を明かす。そこには、霞が関の縦割り行政の弊害も影響していると、古川氏は指摘するのだ。

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 例えば12年8月25日、東京・品川区の大井埠頭でコンテナ貨物船への貨物検査が行なわれた。貨物船は北朝鮮からミャンマーに向け航行中であり、積荷は「アルミニウム、銅、電化製品、鉄製品」などと申告されていた。荷受人はミャンマーの軍事企業である。この貨物船を所有・運航する台湾の大手海運会社は、積荷は兵器の可能性があるとのアメリカ政府の指摘を受け、検査のために東京で問題の貨物を下ろすことに決めた。日本にとっては10年に施行された貨物検査特別措置法に基づく初めての“実戦”である。

 問題の貨物はコンテナ2つ。中には膨大な量の、様々な金属片が積みこまれていた。アルミ、亜鉛、ニッケル、鉄など100種類以上あり、やっかいなことに一つひとつの成分が異なっている。つまり、すべて異なる金属なのだ。

 日本政府が国連安保理に対して検査結果を報告したのは、検査から半年後の13年3月。日本政府は最終的にアルミ合金の棒5本のみを押収した。ウラン濃縮のために使われる「ガス遠心分離機のローターに用いられる構造材料」、つまり核関連物資に該当すると判断したのだ。だが、その他は「スルー」された。

日本のお粗末な“制裁”

「5本」以外にも、核関連ではないにせよ通常兵器の製造に使用可能な金属もあったように思われたが、日本政府は「日本の貨物検査特別措置法の禁輸品目リストには該当しない」と判断したのだ。この時点で、リストに通常兵器に使われる汎用品はほとんど含まれていなかった。

 しかし、既に09年に採択された安保理決議では、北朝鮮がかかわる「すべての武器及び関連物資」の移転の阻止が義務付けられていた。いかなる貨物であっても兵器への転用が疑われるのであれば押収しなければならないのだが、当時の貨物検査特別措置法では、国連制裁の義務を部分的にしか果たせなかったわけだ。

 しかも、規制対象品目は、所管官庁によって異なっていた。経済産業省が所管する輸出管理のための「外為法」の規制品目リストでは、通常兵器の汎用品は規制対象に含まれている。だが、財務省・外務省・国土交通省が共同で所管する貨物検査特別措置法は、日本に寄港した船に積まれた貨物を対象としており、こちらのリストでは禁輸品目が大幅に限られていたのだ。同じ国内で所管官庁によって規制対象の品目が異なっていたのでは、水も漏らさぬ制裁などできるわけがなかった。日本政府が貨物を解放(リリース)したことに対しては、アメリカ政府からもクレームが入ったと聞いた。

 貨物検査特別措置法で、制裁違反目的の「いかなる貨物」も押収対象に含めた政令が公布されたのは、17年の10月6日のことである。日本政府による対北朝鮮制裁の履行状況は、国内で想像されているよりお粗末だ。

 また日本政府は、取り締まるべき貨物船が目の前に停泊しているのに、みすみす見逃したこともある。

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