幸福に老いるためには“池上彰を疑え”!? 被差別高齢者にならないために

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お金を使い続けるかぎり

 人間は高齢になるにつれて、男性ホルモンのバランスが変化する。

 女性は男性ホルモンが増加し、認知力や意欲が増してきて、人付き合いがよくなる傾向がある。有名人などの追っかけに中年の女性が多いのも、男性ホルモンが影響していると思う。反対に男性は、年齢を重ねると男性ホルモンが減り、意欲が減退するとともに、憂鬱感が強くなって集中力が失われ、怒りやすくなる。

 実は欧米の調査でも、男性ホルモンが多いほど、寄付やボランティアなどを通した社会への貢献度が高まる、という結果が出ている。男性ホルモンは多いほうがいいのだ。では、どのようにして増やせばいいか。某週刊誌の「死ぬまでセックス」ではないが、日ごろから性的刺激を得るのは一つの方法だ。また、食生活のうえでは、意識して肉やニンニクをたくさん食べるといいと言われている。

 そして、最後に強調したいのが、「お金より情報」ということだ。

 日本社会は無知な人間に恐ろしく冷たい、と知っておいたほうがいい。情報を持っているかどうかで受けられる医療も、介護も、そして葬式にまで、大きな差が生じてしまう。

 たとえば、群馬大学病院で肝臓の手術を受けた患者18人が亡くなった事件。患者がこの病院の実態を知っていれば、被害はもっと少なくて済んだと思うと残念だ。というのも、群馬大学は元来、研究至上主義。医療より研究が大事なのだ。

 2005年には、親の介護を終えた50代の女性が群馬大医学部を受験し、合格者平均点より10点以上高い点数を取りながら落とされた。大学側は年齢が理由とは認めないながらも、研究ができないからだと説明した。患者がそんな体質の病院と知っていれば、新幹線で40分程度の東京の病院も選べた。かように高齢者こそ、正しい情報を入手して身を守る必要がある。

 また、年金が少ない人は差額分の生活保護を受給できる可能性があることも、知らない人が多い。そうした情報を十分に得て、損をすることは決してない。

 生活保護の利点は、医療費も無料になることだ。日本には、生活保護を受けるのは恥だという風潮があるが、これまでまじめに税金を支払ってきた人なら、それを多少返してもらうくらいに考えていいと思う。

 一方、年をとってからも節約し、貯蓄に精を出す人がいるが、「宵越しの銭は持たない」くらいの気持ちでお金を使ったほうがいい。

 職を退いた途端に、元気を失い、場合によってはうつ病になってしまう人がいる。社会とのつながりを失い、「自分はもう世の中の役に立っていない」と感じてしまうのだろう。だが、人はお金を使い続けるかぎり現役だと思う。

 極端な話、生活保護を受給していても特別養護老人ホームには入れるし、寝たきりになれば、かなりの部分は介護保険や医療保険から支給される。元気なうちは、お金は使い切らなければ損なのだ。私が高齢者を数多く見てきた経験からも、こぢんまりと生活している人より、お金を使っている人のほうが、寝たきりになる時期が遅い。

 高齢者をないがしろにする「嫌老社会」を招いた原因の一つは、高齢者がお金を使わないことだ。日本ではお客様は神様。少しいい魚を買うようにするだけで、店はお得意さん扱いしてくれる。企業も消費者の意見は無視できない。お金を使い、高齢者の発言力を高めるのだ。お金の使い道を考えることが脳の刺激にもなるのは、言うまでもない。

 以上を意識して、ぜひ「自衛」してほしい。

 ***

和田秀樹(わだ・ひでき) 精神科医。1960年、大阪府生まれ。灘中高を経て東大医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授。高齢者専門の精神科医として長年、高齢者医療の現場に携わってきた。『「高齢者差別」この愚かな社会』など、著書多数。

週刊新潮 2017年11月9日号掲載

特別読物「『嫌老社会』で『被差別高齢者』にならないための7カ条――和田秀樹(精神科医)」より

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