介護職員は「熱意」よりも「技術」を 障害者芸人ホーキング青山の訴え

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天使でなくてもいい

 ダウンタウンの松ちゃんこと松本人志さんが、芸人の不倫報道に関して違和感を口にしていた。芸人にそんなにモラルを求められても……というのがその真意だろう。

 実際のところ、世間が求めるモラルは職業によってある程度異なる。政治家には清廉潔白を、看護師には心の清らかさを期待するのが人情というもの。介護士など社会福祉にかかわる人に対する期待も、看護師へのそれと似ている。

 しかし、実際の現場では必ずしも「心の清らかさ」が必要ではない――そう指摘するのは、障害者芸人のホーキング青山さん。訪問介護事業所のオーナーという顔も持つホーキングさんは、新著『考える障害者』でこう述べている(以下、引用は同書より)

「『介護者(介護職員)=善意の人』あるいは『介護や福祉の世界で働く人=人格者』というイメージが世間にはある。看護師さんあたりに対しても似たようなイメージがあるだろう。『白衣の天使』というやつだ。

 でもここが難しいところだ。実際に介護関係で働く人は一般の人よりも皆障害者に理解はあるだろう。しかしだからといって皆が皆、世間で思い描かれているような天使のように優しく、またマザー・テレサのように無私で自己犠牲も厭わない、そんな人たちばかりでは決してない。

 もちろんそういう介護や福祉について熱く語り、お客様のためならなんでもやろう、場合によったら頼まれていないこともやろうとする割と世間の介護者へのイメージに近い熱血的なタイプと、あくまで介護を『仕事』としてやっているタイプの人がいる」

 そうだとしても、理想は高いにこしたことはないだろう、と思われるかもしれない。しかし、実際に仕事として介護にかかわったホーキングさんはそうした考えを否定する。いい意味で仕事として割り切っている人のほうが、自然体で仕事に向かい合えて、長続きするというのだ。

「熱血漢タイプは、一見理想的な人材に見える。しかし、これはなにも介護の世界ばかりではないと思うが、理想が高過ぎて現実とのギャップに耐えられなくなってしまう人が結構いるようなのだ。またこういう人は、自分なりの理想を時として他の従業員やときにはお客様にまで押し付けてしまい、嫌われてしまうケースも何人かいた」

非常識な人たち

 もちろん、理想が高く、コミュニケーション能力があり、さらにスキルも身についている、といった人がいればいいだろう。しかし、そういう人は滅多にいない(どの業界でもそうだろう)。経営者としての苦労をホーキングさんに改めて聞いてみた。

「2000年に介護保険制度が始まったときから、少しでも介護に携わる人を増やすために、国は資格を取得しやすくしました。人材が流入してくるのは悪いことではないのですが、入って来た人の中には社会性に疑問符をつけたくなる人がいるのもたしかです。

 面接にカジュアルな私服で来る人は結構いました。それはいいとしても、面接でいきなりタメ口で話しかけてくるような人もいたのです。相手は私より年上のこともあり、その非常識さには驚きました。

 またある時には、『昔この辺に住んでいたから、土地勘がある』と豪語していた人を雇ったら、すっかり道に迷ってお客様のところに時間通りにたどり着けない、ということがありました。道に迷っている最中に電話がかかってきたので『この辺に土地勘があるんでしょ?』と言ったら、

『昔住んでいたのは本当ですが、実はすごい方向音痴なんです』

 これには絶句してしまいました」

 熱意も大事だが、プロとしてのスキルや持続性が求められる、とホーキングさんは指摘している。これは介護にかかわらず、あらゆる仕事に通じることなのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2018年1月4日掲載

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