「コンビニ店員」はなくならず、ホワイトカラーの仕事は消滅! AI社会の誤解

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人工知能の書いた小説

 世の中に流布している一番大きな誤解は「ロボットや人工知能に奪われる仕事は単純作業が多い」というものだ。確かに今から10年ぐらい前まではそのような意見が正しかった。工場の生産ラインや自動倉庫など企業の設備がつぎつぎと自動化されていき、主にブルーカラーの仕事が減っていく現象が先進国で起きてきた。

 しかし今、近未来の消滅危機にあるのはホワイトカラーの仕事である。転換点は2012年に起きた人工知能開発の50年来のブレークスルーにある。この年、ディープラーニング(深層学習)といって人工知能が自ら学習をする能力を身につけたのである。

 アルファ碁というAIが世界最高の棋士を破ったのは、人工知能が過去のプロの棋士たちの対戦の棋譜を読み、どうすれば囲碁に強くなるのかを自ら学んだ結果である。

 深層学習をする人工知能は、近い将来には金融商品のトレーダー、銀行の融資業務、訴訟の準備を行う弁護士助手、申告書類を作成する税理士の仕事など専門家の仕事を比較的簡単に学びとってしまうだろう。専門的な仕事であればあるほど、人工知能には学習しやすい。内科医の診断のような分野でも、人工知能は膨大な医学論文を読みこなすことで駆け出しの医者よりもはるかに正しい診断を下せるようになる。

 つまり高度な専門知識や資格を必要とする知的な仕事ほど、早い段階で人工知能に置き換わっていくのだ。

 さらに昨年には人工知能が書いた小説が星新一賞の1次審査を通過するという「事件」が起きた。創造的な仕事ですら人工知能の侵食が始まっている。

 一方でロボットが人間の仕事を奪っていくペースはそれほど速くはない。ロボットにはふたつのボトルネックがあるからだ。ひとつは「指」の性能である。最近のロボットは複雑な地形でも二足歩行が可能になってきており、腕を用いて荷物を移動させるような仕事は人間同様にこなせる日がかなり近づいてきた。

 しかしロボット工学者が簡単には再現できないのが人間の指の性能である。人間の指は細かい作業を自在にこなせる高性能デバイスだ。たとえばコンビニの店員が段ボール箱を開梱して、商品をひとつひとつ取り出して棚に置いていくような作業はロボットには容易にできない。

 人間が無意識にこなしている指先の仕事をロボットがこなせるようになるまでには20年よりもずっと長い時間がかかるのだ。そのためコンビニの店員だけでなく、ファストフードの従業員、建設現場の大工や左官のような仕事など、肉体労働的な仕事のかなりの部分は20年先でもなくなることはなさそうなのだ。

 もうひとつのボトルネックはロボットの生産スピードだ。ロボットのような部品点数の多い製品を組み立てるには、時間と工数がかかる。同じく部品点数が多い機械製品に自動車があるが、自動車は世界中の生産設備をフル稼働させても年間で1億台しか生産できない。世界中の人間の仕事を奪うだけのロボットを製造するには50年はかかる計算だ。だから実は人類の仕事消滅という問題については、ロボットの進化は大きな問題ではないのかもしれないのだ。それよりも一度開発されてしまえば容易にコピーできる、人間よりも性能の高い人工知能の出現の方が、われわれの仕事消滅にはずっと大きな影響がある。

(2)へつづく

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鈴木貴博(すずき・たかひろ) 経営戦略コンサルタント。東京大学工学部卒業後、ボストンコンサルティンググループ等を経て2003年に独立。人材企業やIT企業のコンサルティングの傍ら、経済を切り口に社会問題を解説する経済評論家としても活躍している。

週刊新潮 2017年11月9日号掲載

特別読物「あなたの仕事を奪う『AI社会』3つの誤解――鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)」より

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