ダウン症の子を産むという選択 既存社会の在り方に踏み込む力作「コウノドリ」第10話

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出産の道を選び、社会で生きるということ

 夫婦が大変、産まれてくる子が可哀想、障害があるということが不幸であるという未来図しか描けないこの社会にこそ問題がある。今回、実際にダウン症の子どもを育てていることを公表している奥山佳恵がペルソナ(サクラたちが勤める総合医療センター)に通う母親役として登場したことは意義深かったが、ソーシャルワーカーらによる、ダウン症の子の家族会の見学も映像に取り込まれていれば、より良かったかもしれない。

 現在の日本社会では、中絶を選択して心の傷に苦しみ、障害のある子を産んで姑や舅から疎まれ、発達障害があればしつけが悪いと責められるのは母である女性になりがちだ。そんな中、手術を控えた透子に光弘が「お前だけが背負う問題じゃないからな」と言葉をかけたのは救いだった。だが、現状の社会では、障害なく産まれた方がよいと願う親の気持ちを責めることはできない。だからこそドラマを観た、あるいは評判を聞いた一人一人が、少しでも世の中を変えていきたいという意志を持ってほしい。

 小松に案内された処置室の前で、透子は足が竦み、倒れてしまった。透子は、身を震わせて迷いながらも中絶手術を取りやめる決意をした。その一部始終を、サクラはじっと見つめていた。「ごめんなさい」と言った透子に「何で謝るんだよ」と答えた光弘。この夫妻なら、きっと、きっと手を取り合って子どもを育てていくことができると信じたい。

 そして終盤、四宮のもとに、ついに妹から父の死を知らせる電話が入った。知らせを受け取ったばかりの四宮のもとに、緊急カイザーを要する妊婦が搬送されてきたが、彼は他の医師に託すことなく自ら執刀に臨んだ。それは親の死に目にも動揺しないプロフェッショナルの姿か? いや、違う。彼は臨床医として、父の状態は既に折り合いが付いていたはずだ。ただ“その時”が来ただけである。妹づてに、父から託された自分の臍の緒が入った輪島塗の小箱を渡され、見つめていた時点で、直接描かれこそしなかったものの、父と自分の中で対話はすでに醸成されていたのだ。

 父の臨終に間に合わなかったことについては、四宮は申し訳ないと思ったかもしれない。だが、連絡を受けた以上、彼がやるべきことは決まっていた。すなわち新しい命を産み出す手術によって、父の弔いをすること。手術を終えた四宮は「ペルソナを頼む」とサクラに言い残し、東京を後にした。

 重厚で真摯なテーマを毎回届けてれた「コウノドリ」もついに最終回を迎える。救命科で鍛錬を積んでいる下屋加江(松岡茉優)、尊敬する今橋貴之(大森南朋)のもとを離れて、新たな環境で学び直そうとしている白川領(坂口健太郎)。そしてサクラ、四宮たちはどのような選択をするのか。ファーストシーズンからの集大成となる最終回を、祈るような思いで今はただ待っている。

西野由季子(にしの・ゆきこ)(Twitter:@nishino_yukiko) フリーランサー。東京生まれ。ITエンジニア10年、ライター3年、再びITエンジニアを経て、永遠の流れ者。実は現代演劇に詳しい。

2017年12月20日掲載

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