医師たちの挫折、新たな道……選択と成長を描いた「コウノドリ」第8話

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がんばり屋さんの赤ちゃんは「誇り」

 そんな中で、私が今回素晴らしいと感じたのは、サクラが健康な赤ちゃんを産めなかったと自分を責める真帆に「がんばり屋さんの赤ちゃんを誇りに思ってください」と話したことである。子どもが先天性の病気を持っているなどの場合、親は自分を責めてしまうことが多いという。お母さんは悪くなくて、がんばり屋さんの赤ちゃんがすごいのだ、というメッセージを伝えたサクラの言葉は、どれだけ真帆の心に明かりをともしたことだろう。そして、手術のために別の病院へ搬送される車中で、真帆は小さな子どもに「がんばってるね、すごいね」と声をかけ続けたのだった。

 車に同乗した白川が、風間夫妻に何も言えず帰ろうとした矢先、声をかけたのは「コウノドリ」ファーストシーズンでペルソナから去った新生児科医・新井恵美(山口紗弥加)だった。「週に2回、ここの小児科でバイトしてんのよ」と、颯爽と現れた新井の元気そうな姿に安堵した前作からのファンも多かったのではないだろうか。新井は事情を訊き、白川に「医者辞めたい?」と問いかけるが、白川は「わかりません」と答えるばかりだった。前作で、ある新生児の命を救えなかったことで燃え尽きてしまった新井は今「どんな子どもにだって未来も可能性もあるから、自分ができることを精一杯やりたい」と前向きに語ることで、白川をそっと励ましたのだった。

ペルソナを辞める……白川の選択

 人は、どのような時にみずからの進む道を選び取るのだろう。新しく生まれ変わりたいと思った時、やりたいことが見つかった時、病気や環境変化などの外的要因のために選ばざるを得ない時、目的のために必要な試練を受ける時……。年齢、仕事、生き方を問わず、誰にでも選択の時はやってくる。その時にどんな選択をするかということに、人の生き方は表れる。あなたは、私は、あの人は、どんな選択をして今の居場所に立っているのだろう? そこにたどり着くまでに何を失い、捨て、得ただろう? ペルソナの医師たちの姿に重ねて、おのれの来し方、そして行く方に思いを馳せたのは私だけではないはずだ。
 
 真帆の退院の日、白川は夫妻に頭を下げたが、陽介は無視を貫いた。真帆はそれでも「白川先生、お世話になりました」と言葉を残してくれた。そのことが涙を流して悔しがった白川の救いになればよいと、願う。

 白川は、屋上で下屋加江(松岡茉優)に、ペルソナを辞めて小児循環器科での研修をすることにしたと告げる。自身も、産科から救命科へ異動した下屋は理解を示すが、白川は、自分がどんな医者になるかということばかり考え、患者に寄り添う気持ちを見失っていたと、自分を素直に顧みた。ああ、この2人がいつか最強の産科・新生児科の医師として命をつないでくれるようになる日が楽しみだと思えるワンシーンだった。

 その頃、ペルソナ産科には晃志郎から「春樹へ」という手紙とともに能登の名産品の海産物が1箱、送られてきていた。「一日一生 晃志郎」とだけ書かれた手紙を見つめ、四宮は次のオペに向かった。彼が何を思って手紙を受け止めたかは、わからない。

 物語は、四宮の妹、夏実(相楽樹)からの電話をサクラが取る場面で終わった。「父がさっき病院に搬送されました」という夏実の言葉に重なった、四宮の「赤ちゃん、産まれるぞ」というオペ室での声。これまで、命が産まれる瞬間の奇跡を描き続けてきた「コウノドリ」が、老いによって迫り来る死の問題とどう交わるのか、つらくとも見届けなくてはならないと、今一度身の引き締まる思いだ。

西野由季子(にしの・ゆきこ)(Twitter:@nishino_yukiko) フリーランサー。東京生まれ、ミッションスクール育ち、法学部卒。ITエンジニア10年、ライター3年、再びITエンジニアを経て、永遠の流れ者。実は現代演劇に詳しい。新たな時代に誘われて、批評・編集・インタビュー、華麗に活躍。

2017年12月6日掲載

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