「飲食店で威張る奴」は本物のバカ! ビートたけしの大正論

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たけしが“粋”だと思う「金の払い方」とは

 単に評判の問題ではなく、店での振る舞いそのものもまた、芸人としての修業につながる、ということをたけしは師匠である深見千三郎に教わったのだという。師匠の振る舞いがとても「粋」だった、とたけしは振り返っている。

 まず、金の払い方。昔気質の深見さんは、食事代とは別に板前に祝儀をあげることを常としていた。粋なのはその渡し方だ。

「食べて、偉そうに『ほら、とっとけ』なんて渡すのじゃなくて、店を出てから弟子のおいらに『渡してこい』とやる。

『店にいる間に渡したら、“ありがとうございます”なんて、俺に気を遣って挨拶に来るだろう、バカ野郎。だから店を出てから渡すんだ』と、そういうしきたりみたいなものにはきっちりしていたし、うるさかった」

店での振る舞いも修業のうち

 こういう教えもあって、たけしは飲食店では偉そうにできないのだろう。深見さんの凄いのは、これだけではない。すべての振る舞いや所作が芸人という商売に結び付いていく――「芸人根性」とでも言えるものを、たくさん教わったというのだ。

「浅草のどこかの座敷でスッポンを食った時のこと。師匠もおいらも結構酔っ払って、さあ帰ろうかという時、おいらが下足箱から師匠の靴を出したら、いきなり怒られた。

『バカ野郎! なんでお前はこの靴を出すんだよ』

 弟子が師匠の靴を出すのは当たり前なのに、なんで怒られたのか不思議に思っていると、『お前は普通に靴を出してどうするんだ。そうじゃなくて、あそこにあるピンクのハイヒールを持ってこい』なんて言う。『ピンクのハイヒールを履いて背ぃが高くなって俺が出て行ったら、みんな笑うだろう。だからお前はお笑いのセンスがないんだよ』」

 この言葉に、若き日のたけしは、「何考えてんだこの人は、そこまでして人を笑わせようとするのか」と驚いた。そこから得た教訓をこう語る。

「コメディアンというのは、会った瞬間に『この人は面白い』と雰囲気で思わせなきゃいけない。それはただ笑われるというのと違って、その人が持っている雰囲気が大事なんだ。それは普段から意識しておかなければ身につかない」

 こんな風に学んだ芸人としての姿勢は、70歳となった今でも体にしみついている、という。

※ビートたけし『バカ論』より一部を再編集。

デイリー新潮編集部

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