「世界ふしぎ発見!」で放映“天空の修道院“メテオラに押し寄せる“インスタ映え”の波

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 先日(11月18日)、TBSの人気番組「世界ふしぎ発見!」でギリシャ正教の修道院、メテオラが紹介された。「空中に浮かぶ修道院」と呼ばれるように、メテオラの修道院群は数百メートルにも及ぶ屹立した断崖の頂点に立てられている。14世紀から修道院の建築が始まったと言うが、いったいどうやってあれだけ大規模な建造物を岩山の頂上に建てたのか? 大変興味深い映像で、修道士たちが世俗と隔絶された環境で祈りに専念するには、絶好の環境に見えた。

 ところが、世界遺産にも指定されたメテオラ修道院群は、制限はあるものの観光客にも開放されており、正教徒のみならず、世界各国から見学者が訪れている。番組のカメラも女子修道院の聖堂内まで入り、聖歌を歌う修道女たちの姿を捉えた映像が放映されていた。

 日本からのギリシャ観光ツアーにも、メテオラは組み込まれていることが多く、訪ねた人も多いだろう。本来、俗世から隔絶された環境として選ばれたこの地が、まさにその特異性によって観光資源となり、押し寄せる観光客によって“俗化”されることになっているのは皮肉なことだ。実際、写真投稿SNSインスタグラムには「#meteora」「#天空の修道院」「#メテオラ修道院」なるハッシュタグが作られ、“インスタ映え”を狙う観光客が大勢訪れている。その結果、静かな環境が損なわれ、祈りに専念できないと、この地を離れる修道士も少なくないと聞いた。

 では、メテオラを離れた修道士たちはどこに向かうのか? それはもうひとつのギリシャ正教の聖地、アトスである。ギリシャ国内にありながら、宗教自治国として治外法権が認められているアトスは、メテオラ以上に俗世間と隔絶された環境に置かれている。エーゲ海に臨む半島に位置し、陸路は遮断され、海路でしか入ることができない。のみならず、厳しい入山制限があって、正教徒の巡礼者のほか、ごく限られた少数の観光客しか入ることができない。メテオラには女子修道院もあって、修道女はもちろん、女性の観光客もロングスカートを着用すれば入山が許されるそうだが、アトスは現在も女人禁制の掟を頑なに貫いている。ネズミを駆除するために許された猫以外、家畜まで、メスは一匹もいないと言う徹底ぶり。それほどに厳しい環境だから、アトスでは基本的に撮影禁止。聖堂内の祈りの光景など、体験者に話を聞くしかその実態を窺い知る術がなかった。

 そんなアトスの政府から、日本人として初めて公式の許可を得て、アトスの全貌を撮影、出版した写真家がいる。中西裕人氏だ。正教の司祭を父に持つ中西氏は、自身も30代半ばに洗礼を受け、これまで4年間に5回、アトスに巡礼に赴いた。当初は写真を撮ることが目的だったと言うが、取材を進めるうちにギリシャ正教の本質に触れ、自身も敬虔な信者となった。中西氏は、これまで謎に包まれていた聖地を正教徒ならではの視点で撮影し、一冊の写真集としてまとめた(『孤高の祈り ギリシャ正教の聖山アトス』新潮社刊)。同書は国内外のキリスト教関係者からも高い評価を受けているという。

 番組内でインタビューを受けた修道女が、彼女らに課せられた掟として「従うこと、物を持たないこと、純潔を保つこと」の3つを挙げていた。アトスでも「基本的な信仰の姿勢は同じだが、さらに厳しく、純度を保った祈りの生活が求められている」と中西氏は語る。「アトスはもっとも天国に近い場所だと、彼らは感じているんです」。閉ざされた宗教空間に対する好奇心だけではなく、同じ信仰を持つ正教徒として、その祈りの本質に迫ろうとする時、自ずと見えてくるもの、感じ方は違うはずだ。中西氏が撮影した修道士たちの表情や祈りの写真、そして彼らと心を通わせるレポートは、テレビ画面に映る世界とは別の、旅人として聖地を訪ねるのとは本質的に異なる視点が感じられた。

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