女性プロデューサーがタブーに斬り込んだ「石つぶて」ドラマ化の波紋

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舌を巻いた元二課刑事

「一つ一つの石は小さくても、『石つぶて』を投げた刑事たちのように意志を持って投げることが、いつか風通しの良い社会につながるのではないかと思います」

 と永井は言う。岡野も似たような感慨を山口に告げた。

「石を投げ続ければ必ず相手に届くんだ、という精神で作ります。タブーに切り込むこと自体が難しい時代です。けれども物語の精神論がしっかりして、面白いものであれば、タブーであってもやろうよと踏み出しました。私にも多少ビビりはあるかもしれませんが、今やらないと意味がないことをやりたいんです。力を貸して下さい」

 ただし、山口は外務省事件当時、捜査二課を離れており、教えたのは二課独特の捜査手法や流儀、刑事の佇(たたず)まいといったディテールだった。むしろ、彼女たちが松尾室長の“詐取口座”の全容や官僚たちの事件関与、女性関係などを詳細に掘り起こしていることに、山口が舌を巻いたくらいだ。

 そして、「自宅から捜査員が吸い出す(任意出頭させる)ときは具体的にどうやるのか」「捜査二課の捜査部屋や調べ室は、一課のそれとどう違うか」「逮捕後、二課の取り調べでは手錠や腰縄はどうするのか」といった細部を、一つずつ聞いてくる律儀さに感心した。そうしたプロの根性に山口が動かされたところがある。

 放映を前に、山口は第一話をDVDで見た。荒々しく激しいドラマに仕上がっていた。主役の佐藤浩市や江口洋介は二課刑事にしては恰好が良すぎる。実話とも少し離れていたが、それは、刑事の心意気を映像で見せようとしたからだろう。

 中才や中島、萩生田、鈴木、それに近藤春菜の父や山口自身……、それらの人生の糸が撚(よ)られて、太い綱のような二課刑事の日々が紡がれている。「きっと見ろよ」。口の悪い元同僚たちに勧めてやろうという気持ちが山口の中に湧いて来た。(文中敬称略)

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清武英利(きよたけ・ひでとし)
ノンフィクション作家。1950年生まれ。75年、読売新聞社入社、社会部記者として活躍。2011年6月からは読売巨人軍専務取締役球団代表兼GMなどを務めた。同年11月解任。

週刊新潮 2017年11月16日号掲載

特別読物「女性プロデューサーがタブーに斬り込んだ!『石つぶて~外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち~』ドラマ化の波紋
――清武英利(ノンフィクション作家)」より

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