ロッテ1位指名、安田尚憲選手はなぜ松井氏を尊敬しているのか 新人選手必読の書『不動心』

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 話題性では清宮選手の後塵を拝したとはいえ、実力の評価では勝るとも劣らないのが、ドラフトで千葉ロッテマリーンズが1位指名した履正社高校の安田尚憲選手だろう。

 その安田選手が「何度も読んだ」とNHKの取材で語ったことで、にわかに注目を集めることになったのが、『不動心』(松井秀喜・著)である。ニューヨーク・ヤンキース在籍中の松井氏が2007年に発表した同書は、野球論というよりも一種の人生論として広く読まれ、34万部のベストセラーとなった。

「人間性も素晴らしい選手になりたい」と語る安田選手は、松井選手をその理想像ととらえているようだ。

 具体的に、『不動心』のどこが特に琴線に触れたのかまでは語っていないのだが、松井選手の人間性の素晴らしさは多くの人が認めるところなのは言うまでもない。どんなときでも、冷静に、紳士的に振舞う姿が尊敬を集めたのだ。

 なぜそのように「不動心」を保つことができたのか。

 どのようにすれば、松井選手に近づけるのか。

 新たな一歩を踏み出す新人選手たちに役立ちそうなところを同書から、3回にわたってご紹介しよう。まずは、「失敗したときの振る舞い方」編だ(以下、『不動心』より)。

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悔しい思いは口に出さない

 僕は決して気持ちの切り替えがうまい方だとは思いません。逆転のチャンスで打てなかったり、絶好球を打ち損じてしまったりすると、結構引きずってしまいます。帰りの車の中でも、自宅に戻ってからも、脳裏に空振りのシーンが渦巻いていたりします。思わず「あーあ」と嘆いてしまいそうになります。

 しかし、一つルールを決めています。それは、安易に口に出さないことです。不思議なもので、言葉として口に出すと、気持ちがエスカレートしてしまう気がするのです。例えば「あのカーブに手を出すんじゃなかった」という思いを口にしてしまうと、もう、その思いから離れられなくなっていきます。

「何で、あんな難しいボールに手を出しちゃったんだろう。出さないようにしようと気を付けていたのになあ」

 こうなってしまうと、なかなか前へ進めなくなります。もちろん個人差があるのでしょうが、僕の場合はそうなので気を付けています。

 試合が終わると報道陣の取材を受けます。記者の方からすれば「くそー。あの球に手を出すんじゃなかった!」と、感情を前面に出して悔しがるコメントが欲しいのかもしれません。実際、心の中ではそう叫んでいる日もあります。

 でも、努めて冷静に「あの球に手を出すべきではありませんでした。次回に対戦するときは打てるように対策を立てたい」など、前向きに話すようにしています。

 ファンの方が聞いても、物足りないかもしれません。よく知人からも「もっと感情を表に出せばいいのに」と言われることがあります。しかし、僕は感情を口や顔に出すと、その感情に負けてしまいます。

 悔しさは胸にしまっておきます。そうしないと、次も失敗する可能性が高くなってしまうからです。コントロールできない過去よりも、変えていける未来にかけます。

 そう思っていなければ、失敗とは付き合っていけません。プロ野球選手として毎日、毎日、試合に出続けられません。何しろ、成功より失敗の方が多い職業ですから。

 もちろん、色々なタイプの人がいます。選手の中には、思い切り口に出して、すっきり忘れる人もいます。仕事の不満や上司への愚痴も、口に出してすっきりする人もいれば、逆に口に出すと憎しみが倍増してしまう人もいるでしょう。

 腹が立ったり、不満が出てきたりするのは、仕方がありません。思ってしまうのだから、自分にも止められない。でも、口に出すか出さないかは、自分で決められます。そこに一線を画した方が、自分をコントロールできるような気がします。

 だから、打てなかった日の、僕のコメントが物足りないのは勘弁してください。その代わり、チャンスで凡退したのに淡々とインタビューを受ける僕を見たら、想像して楽しんでください。きっと、心の中は悔しさで荒れ狂っているんだろうな、と。

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 もちろん、感情を露わにするスポーツ選手の姿もそれはそれでエキサイティングなのは間違いない。しかし、松井選手は、愚痴や不満をぐっと我慢することで、己をコントロールし、成果を出してきたのである。

デイリー新潮編集部

2017年11月3日掲載

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