拠り所なき「産後うつ」の闇に踏み込む 「コウノドリ」第3話

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がんばり屋の女性ほど患いやすい「産後うつ」

 第3話では、初回から登場している佐野彩加(高橋メアリージュン)の抱える産後うつの問題も、クライマックスを迎えた。娘の2カ月検診で、やたらと自分は元気だから大丈夫だとアピールする佐野。様子を見に来た佐野の母は、来週から仕事に復帰すると気丈にふるまう佐野に「母親に代わりはいない。3歳までは一緒にいるべき」と悪気なく言い、佐野を傷付ける言動を繰り返してしまう。

 佐野の母はもしかしたら、専業主婦として子育てだけに取り組むことを良しとしてきた価値観の世代なのかもしれない。私の友人たちも少なからず、実母や義母に口を挟まれ、仕事と育児の狭間でもがいている。当事者でない私の胸すら痛むのに、当の親たちはどれほど孤独に苦しんでいるであろうか。そして産休の間に自分が参画しているプロジェクトのリーダーから降ろされたことを知った佐野は、精神的に追い込まれてしまう。

 一方、担当医のサクラは、四宮春樹(星野源)との会話の中で、かつて三浦という産後うつの患者を救えなかった経験を明かす。佐野に三浦の姿を重ねて悔やむサクラに四宮は言う。「前を向けよ。お前が大丈夫じゃないんだよ」と。

 佐野は、娘を置いて、ペルソナ(サクラが勤務する総合医療センター)の屋上から飛び降りようとする。そんな佐野を止めたのは、四宮だった。思いとどまり、娘と再会して涙をこぼす佐野の姿に、思わず泣けた。

 望んで出産・妊娠したにも関わらず、どうしようもなく不安や孤独に襲われる「産後うつ」。タレントの釈由美子さんや杉崎美香アナも「産後うつ」を告白しているが、その実態は案外知られていない。がんばり屋のお母さんであればあるほど、周囲に相談できずに孤立してしまう。赤ちゃんを可愛いと思えない、眠れない、涙が止まらない、ひどい場合には自殺や我が子を手にかけてしまうなど最悪のケースに至ることもある。産後うつによる自殺は、出産時の出血などによる妊産婦死亡率の2倍とも言われている。

 2015年の「コウノドリ」ファーストシーズンの放映から2年が経つ。2016年には「保育園落ちた日本死ね」という言葉が良くも悪くも世間をにぎわせ、育児と仕事を両立させる良い母親でなければならない、というプレッシャーはかつてないほど顕在化している。それが時に、新しく母になる人々を追いつめている。誰しも初めて親になる時は、子どもとともに生まれ直すようなものなのだ。
 
 繰り返しになるが、出産はひとつのスタートでしかない。佐野は四宮の紹介により、精神科で産後うつの治療を受けることになった。ここからが新しい始まりだ。サクラの優しさと、四宮の厳しさ。表れるかたちは違っても、ふたりが互いを尊重しあい、患者を大切に思う姿が視聴者を勇気づけ、子どもを持つ人も持たない人も、協力しあって子どもを育てられる社会になることを願う。

 さて、産科に来ている研修医、赤西(宮沢氷魚)は、生意気とも取れる態度で四宮や下屋(松岡茉優)の怒りを買ってしまう。そしてラストシーン、新生児科に緊急搬送されてきた子どもの母親(松本若菜)は、以前四宮とひそかに会っていた女だった……。

 今回は、真剣に「産後うつ」の実態を考察したが、次回以降産科医たちの「人間」としての姿を描く今シーズンの「コウノドリ」から、ますます目が離せない(特に四宮)。

西野由季子(にしの・ゆきこ)(Twitter:@nishino_yukiko) フリーランサー。東京生まれ、ミッションスクール育ち、法学部卒。ITエンジニア10年、ライター3年、再びITエンジニアを経て、永遠の流れ者。新たな時代に誘われて、批評・編集・インタビュー、華麗に活躍。

2017年10月31日掲載

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