緊急寄稿 大衆扇動の「小池劇場」に熱狂「B層」が日本を亡ぼす――哲学者 適菜収

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悪質な宗教と同じ

 現状に不満があり、将来が不安だからでしょう。かといって、判断の責任を引き受ける気力もない。

 そこで彼らは権威や強いリーダーを求めるようになる。何ものにも束縛されたくないと言いながら、束縛されたくてたまらないのだ。

 イギリスの政治哲学者マイケル・オークショットは、西欧近代は二つのタイプの人間を生み出したと言います。一つは判断の責任を引き受ける「個人」であり、もう一つは「できそこないの個人」。要するに大衆です。彼らは前近代的な社会的束縛を失い、自由になった反面、不安に支配されるようになった。過去に「理想」を見出そうとしても、前近代的な共同体はすでに消滅している。彼らは自己欺瞞と逃避を続け、自分たちを温かく包み込んでくれる「世界観」、「疑似共同体」、正しい道に導いてくれる「強力なリーダー」を求めるようになった。

 ある種の政治家はこのニーズを利用する。理想の未来を提示し、「改革気分」を煽れば、B層はコロッと騙される。

 彼らは自分たちが主体的に判断しているつもりだが、選択肢はあらかじめ用意されている。

 小池の独裁者まがいのやり方も、B層はリーダーシップと勘違いする。

 全体主義は上から下への権力の一方的な行使ではない。強いリーダーに縛られたい大衆の願望とそのニーズを利用する政治があって成立する。彼らが求めているのは「気分」である。大衆はデマに不感症になり、訳知り顔で「政治家なんて嘘をつくもの。青臭いことを言うな」などと言いだしたりもする。

 小池は「希望の党」結党の会見で「日本をリセットする」と発言。「大きなところで『改革』ということ、『保守』ということを確認するという意味でのリセットだ」などと説明していたが、ほとんど社会を解体するカルト勢力の発想だ。

 漫画『ドラえもん』に、「どくさい(独裁)スイッチ」という話があります。これは未来の独裁者が開発した秘密道具で、気に入らない人間を自由に消すことができる。のび太は、いじめっ子のジャイアンを消し、最後には「誰も彼も消えちまえ!」と叫んでスイッチを押す。すると、本当に誰もいなくなってしまい、のび太は途方に暮れる。

 のび太が後悔し、反省していると、ドラえもんが現れ、実はこれは独裁者を懲らしめるための道具なんだと真相を告げる。いい話ですね。

 世の中には変えていいものもあれば、いけないものもある。当たり前の話です。そして、先人たちの営みのなかで長い歴史的な時間をかけて生成され、積み上げられてきたもの、常識や習慣や制度には、一見、非合理的に映ったとしても何らかの意味があると考えるのが正常な人間です。

「改革」は便利なキーワードです。失敗したら、それは改革が足りないからだと言い逃れできる。だからもっと改革を進めろと。これは悪質な宗教と同じです。救われないのは信心やお布施が足りないからだ――と。

 そろそろ正気を取り戻しましょう。あんなものに熱狂する暇があるなら、『ドラえもん』を熟読したほうがいい。(敬称略)

適菜収(てきな・おさむ)
哲学者。1975年山梨県生まれ。早稲田大学でニーチェを専攻。近大大衆社会の問題点を指摘し続けている。『日本をダメにしたB層の研究』『日本を救うC層の研究』等の著書がある。

週刊新潮 2017年10月12日神無月増大号掲載

特集「小池百合子の希望・横暴・票泥棒」より

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