良妻賢母のカンナさんに抱く違和感(TVふうーん録)

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 ぱっちり開いて、ばっさり盛って、くっきり引いて塗って、迷いも憂いも一切ないメイクがいい。そして、空を切るようなキレのある敏捷な動きと、口角だけでなく唇の細部まで微細な動きを可能にした稀有な表情筋もいい。渡辺直美である。

 過去に日テレ系で主演ドラマがあったのだが、彼女の長所をまったく活かせず、話題にも上がらなかった。今回は余すところなく直美、画面からあふれんばかりの直美を思う存分堪能できる。「カンナさーん!」である。

 が、しかし。ビジュアル的には堪能できても、物語にはモヤモヤする。直美が元気で明るくポジティブなのはいいんだけど、お人好しで頑張りすぎる姿が息苦しい。もうちょっと肩の力を抜ける話だと思っていたんだけどなぁ。どうしても「母親はこうあるべし」と押し付けられているような気がして。母じゃない私がそう思うということは、母をやっている人はもっと強く感じているのではないか。

 直美はアパレルブランドのデザイナー。夫(要潤)と保育園児の息子がいる。

 初回は、要の浮気発覚から始まった。大学時代の元恋人(シシド・カフカ)と懇(ねんご)ろだという。しかも直美に謝るかと思いきや「病気なんだ、恋という」「あれは浮気じゃない、本気だ!」など、浮かれポンチな発言の連続。要の「だらしない・悪気のない・救いのない」クズっぷりが炸裂。しかも、要の両親(遠山俊也&斉藤由貴)が同席。斉藤はあろうことか「浮気されるほうも悪い」と直美を責める。

 斉藤は直美のことがとにかく大嫌い。浮気相手にフラれた要に、新たに元モデルの若い女(泉里香)をくっつけようと画策する。

 近年まれにみるクソ姑なのだが、なぜそんなに直美を嫌うのかがわからない。直美は明るい働き者で、会社では面倒見がよくて人望も厚いし、インスタグラムのフォロワーもたくさんいるし、家事もテキパキこなし、料理もうまいし、キャラ弁なんかも完璧に作る。もちろん、メイクもおしゃれも手を抜かず。どう考えてもスーパー母ちゃん。斉藤が直美を排除しようと、手を回して暗躍までする理由が不明。というか、ドラマ的なご都合主義にしか見えない。嫁姑の相容れない心根を、もう少し丁寧に描けば深くなったのになぁ。

 で、数話分を雑に説明するならば、夫に浮気され、大物デザイナーに告白され、姑に印象操作による嫌がらせをされ、息子にまで拒まれ、職場でも度重なるトラブルに襲われ。でもへこたれず、ストレスもトラブルもポジティブに乗り切る明るいカンナさーん!って。雑じゃない? もうちょっと直美の心の機微や逡巡が欲しくない? スーパー母ちゃんの目覚ましい活躍ばかりが礼賛されちゃったら、ついていけねーわ。「母親はここまで完璧じゃないとダメですかねぇ」と白目剥いて皮肉を言うしかない。

 頑張らなくてもいい、手抜きでもいい、子供優先じゃなくてもいい、聖母じゃなくても、完璧じゃなくてもいい。今のお母さんたちはそういう言葉を求めていると思うんだけどなぁ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年9月21日菊咲月増大号掲載

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