安値競争で懸念される「日本の軍事力」低下 三菱重工“連続落札失敗”がはらむ問題 

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受注合戦の果てに

 長年請け負ったイージス艦を奪われた格好の三菱重工だが、JMUにも事情はある。

「昨年、三菱重工はイージスとは別の新型護衛艦を竣工し、その2番艦も建造中なのですが、本来この2隻はJMUが取ろうとしていた。ところが重工に取られてしまったため、次の発注も取れなければドックが何年も空くことになる。職人とその技術を維持するには、どうしてもイージス艦を受注するしかなかったのです」(同)

 こうした事態の根底には“防衛装備品の調達は原則として競争入札による”と定めた06年の財務大臣通達がある。担い手の限られる防衛産業内で、安値競争が始まったわけだ。

「JMUが実際に起工すれば、当初より大幅にコストが膨らむことでしょう。それでも超過分を防衛省に請求するわけにはいかない。いわば赤字覚悟なのです」(同)

 弱り目に祟り目というべきか、三菱重工は昨年、官邸の肝煎りで進められたオーストラリアへの潜水艦売り込みが不調に終わり、フランス企業に受注を持っていかれた経緯がある。

「日本の防衛産業を支えているのは、三菱重工や川崎重工といった『プライム企業』だけではありません。その下には『ベンダー』と呼ばれる無数の中小企業があり、熟練の職人が手作業で作っている部品も多い。競争入札制度によって生じる赤字覚悟の受注のしわ寄せは、部品の買い叩きという形で下請けにも及び、唯一無二の技術を持った町工場が『防衛省の仕事はやってられない』と撤退する悪循環に陥っています」(同)

 また、その反対に、

「何年も受注がなければ技術の継承もできず、設備と職人のロスになる。防衛装備はニッチ産業で、受注がない間、製造ラインを別の民生品に転用することはできません。弾薬を製造している会社が、発注がないからと同じラインでブルドーザーを造るわけにはいかないのです。かつて装備品は『大きく儲からないがコンスタントに国から仕事が来る』という安定部門でした。それが安値競争に投げ込まれ、製品は性能よりコストで評価されるようになった。儲からない上に不安定とあって、離れていく企業も少なくありません」(同)

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