ボンクラ犯罪者“星野源”にツッコミを入れるドラマ(TVふうーん録)

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 ノーナレーションで綴るドキュメント番組「ノーナレ」(NHK)が好きだ。8月21日放送回では、元暴力団員や前科者がうどん屋を開業する姿を追っていた。

 彼らは銀行口座も作れず、職安に行っても別窓口へ通される。実際、暴力団排除条例を初めて制定した福岡県では、元暴力団員で就職できたのはわずか2%。アウトローになるしか選択肢がない中、カタギになって奮闘する人々を映し出していた。素直に頑張ってほしいと思った。ただし、本音を言えば、罪を犯した人に100%寛容になれない狭量な自分もいる。反省してきちんと罪を償い、社会復帰を目指すまっとうな心根の人たちなのに、色眼鏡で見てしまう。それが「法を犯した代償」なのだと思う。

 罪を犯しても、職も食い扶持も家も失わず、ちゃっかりそのままでいられるのは政治家と有名人・芸能人かな。ぺろっと反省したフリでしれっと復帰する姿には疑問を抱かざるを得ない。

 一般人はそうはいかない。そもそも保釈金すら用意できない人がほとんど。復帰しても相当厳しい生活。そんな前科者の来し方行く末を描いたのがWOWOWの「プラージュ」である。

 主役は、どこにでもいそうな顔と外見だが、独特の「足りていない感」が秀逸な星野源。旅行代理店に勤めていたが、仕事はうまくいかず、女性にフラれ(上司に寝取られ)、ヤケ酒をあおる。酔った勢いで知り合った男たちに覚醒剤を打たれる。いや、酔いも手伝って自ら打ってしまい、深夜に大暴れ(「北斗の拳」コスプレで)。近隣住民に通報され、即逮捕。初犯で執行猶予となったものの、会社からは解雇され、家は火事で焼失。泣きっ面に蜂状態だが、事の重大さをまったく理解していない、能天気状態から物語は始まる。

 星野は他に行くところもなく、石田ゆり子が営むカフェ兼シェアハウスに入居したが、どうやら住人はみな前科者だと知る。恋人を守るための過剰防衛で傷害致死事件を起こした渋川清彦、元彼が薬物の売人で指名手配中の中村ゆり。心と体に大きな傷をもち、街角売春を続ける仲里依紗、再審公判中のスガシカオ、そしてスガの素性を暴くために潜入取材する眞島秀和。

 この渋いキャスティングだけでもさすがWOWOWと思うし、描き方に規制も躊躇もない。特に1話・2話がよかった。星野は「自分は犯罪に巻き込まれただけ」とまるで他人事のようにとらえていて、そこに妙なリアリティがあった。犯罪が遠すぎて、自覚が皆無なのだ。勾留後、家に戻ったときに「まずは自慰」というシーンもホント無自覚の骨頂。シェアハウスに入居後、再就職が一向に決まらず、薄々気づく。同じ前科者である住人たちの悲惨な処遇を知り、ようやく罪の重さを思い知る。遅いわ。でも、星野の無自覚は「自分もそうなる可能性がゼロではない」と思わせるのだ。

 前科者が直面する「寛容ではない社会」も描く。私のように、いや私以上に不寛容な人間が多いのが現実だ。人情に訴えるだけではない結末になるんだよね?

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年9月14日号掲載

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