「金正男」暗殺 インドネシア人女性が暗殺犯に仕立て上げられるまで

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娘は犠牲者

 結果、これが運命の分かれ目となる。午前10時、運転手から「ジェームズ」と名乗る北の工作員、リ・ジウを紹介される。

「自分が関係しているお笑い番組に出演しないか」

 男は、そう話した。

 ギャラは1回400リンギット(約1万円)。事件を起こすまで計12回の撮影が行われた。うち9回の場所は、クアラルンプール郊外の、第一国際空港、第二国際空港、マンダリン・オリエンタル・ホテル等々。

 彼女の役割はいつも同じで、ターゲットとなった人物の顔に“何かの液体”を塗り付けて逃げることだった。液体は、毎回違う臭いがしたという。

 残りの3回の撮影場所は、カンボジアのプノンペン国際空港である。1月29日、彼女はジェームズに連れられ、「チャン」と名乗る男を紹介された。

「この男は、工作員のホン・ソンハクとみられます。流暢なインドネシア語を話し、この日以降、チャンが撮影の指揮を執るようになりました」(先の記者)

 そして問題の2月13日。

「午前8時、クアラルンプールの第二国際空港に到着。チャンは胸に『LOL』とプリントされた長袖のシャツを着た若い女性を指し、『あれが今日の撮影のもう1人の出演者だ』と言われたそうです。その女性こそ、もう1人の実行犯、ベトナム人のドアン・ティ・フォン(29)。その日、ターゲットとして金正男を指差したのもチャンでした」(同)

 金正男がアイシャの前を通り過ぎた時、チャンはいつものようにアイシャの両手に液体を塗った。そして、彼女は犯行に及んだのだ。

 恐るべき北の工作活動。アイシャの父親、アスリアさん(52)は、

「娘は犠牲者。間違いを犯したわけではない。全世界の人に、彼女が釈放されるよう支援をお願いしたい」

 マレーシアでは、殺人罪で有罪になると死刑が適用される。初公判は10月2日。果たして――。

週刊新潮 2017年8月17・24日夏季特大号掲載

ワイド特集「『おんな城主』槿花一日の栄」より

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