“伝説の作家”落合信彦のトンデモ伝説 ヘリで1番ホールに着陸

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自身がエンターテインメント

 もちろんこのあまりにウソくさい――もとい現実離れしたエピソードに、ツッコミを入れる声も多かった。20年以上前、「週刊文春」で対談連載をもっていたデーブ・スペクター氏は落合センセイを指名し、直接ご本人に疑問を問い質した。結局、落合センセイ側からの要請で記事はボツにされたが、ゲラが月刊誌に流出。そこにはたしかにセンセイが気を悪くしそうなきわどい質問が羅列されている。問題のゲラを入手したので、紹介すると、こんな調子だ。

〈“情報費”を年に3000万から4000万払っているっていうけど本当なの。しかも領収書なしで、それで経費として税務署に認められるなんて信じられない〉

 幻に終わった対談について、デーブ氏に当時の記憶を辿ってもらったところ、こんな言葉が返ってきた。

「落合さんの本に“取材では相手を怒らせろ”と書いてあったから、そのとおりにしたら本当に怒ってボツにされちゃった。でも、具体的に何に対して怒ったのかはまったく覚えていないけどね」

 一方で、デーブ氏とは異なるアプローチで「伝説」に切り込んだのが、テリー伊藤氏だ。平成7年(1995)の雑誌対談で、落合センセイに「カッコイイ!」「すごいなあ」と露骨なまでにホメ殺しを行い、センセイが得意の空手で、ある有名人をノックアウトしたという「伝説」を本人の口から引き出している。

〈あんまり強くなかったですね、ブルース・リーは。(中略)3分で勝負がつきました〉(「Views」同年2月号)

 さらに、この対談が興味深いのは、テリー氏が落合センセイを「アントニオ猪木にすごく似ている」ともちあげている点だ。確かに、ニクソンを挑発して名をあげたセンセイと、「プロレスこそ最強」を謳い、モハメド・アリまでリングにひっぱりだした猪木の姿は妙に重なる。テリー氏曰く、

〈落合信彦を批判することは、プロレスに対して「八百長だ!」などと怒っているのと同じなのだ〉(同)

 だが、一方で「八百長は八百長だ」と断罪する人もいる。『捏造ジャーナリスト落合信彦』(鹿砦社)などの著書で、センセイの作品の多くが、海外で唱えられた説をパクったものにすぎないと批判してきたフリーライターの奥菜秀次氏は言う。

「彼は、作品もひどいが、経歴にもおかしな点が山ほどある。たとえば、エクアドルで10万バレルの油田を掘り当てたという話ですが、60年代後半のエクアドルの原油産出量は一度も10万バレルを超えたことがない。石油会社を共同経営していたという『ジョニー』についても調べましたが、そんな人物は存在しません。落合さんの経歴話は、『ショーンK』よりひどい」

 様々な「伝説」の真偽について、センセイに取材を申し込んだが、「必要な主張も反論もペンによって為すべきもの」と断られた。

 先のテリー氏の対談中、ホメ殺しで気をよくしたのか、センセイは珍しくこんな本音をうちあけている。

〈僕は自分自身の人生はエンターテイメントだと思ってますよ、本当に〉(同)

「落合信彦」という極上のエンターテインメントは、まだまだ我々を楽しませてくれそうだ。

週刊新潮 2016年8月23日号別冊「輝ける20世紀」探訪掲載

ワイド特集「20世紀最後の真実 伝説となった『偉人』『怪人』列伝」より

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