劇評家50年のベテランが観た “悲劇の千両役者”市川海老蔵の親子共演

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 半世紀以上、演劇を観続けてきた劇評家の矢野誠一さんが、7月4日の「七月大歌舞伎」の劇評を含んだ「海老蔵論」を「新潮45」8月号に寄せている。「悲劇の千両役者 市川海老蔵」は、歌舞伎座の「異様な雰囲気」を余すところなく活写している。

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「七月大歌舞伎」は、6月22日に妻・麻央さんを亡くした直後の市川海老蔵中心の座組で、4歳の息子・勸玄くんの初の宙乗りで話題になった舞台だ。矢野さんは、ほとんど演じられることのない珍しい演目である通し狂言『駄右衛門花御所異聞』を楽しみにしていたというが、状況は一転、日本中の視線が集中する舞台になった。

 海老蔵の近況が気がかりで、あらかじめ観て頂くようお願いしていた編集部としても、正直驚いた。矢野さん自身も、こう感想を漏らしている。

〈芝居を観ることを仕事にしている身にとって、「七月大歌舞伎」は絶対に見逃せない性質のものだ。複雑な立場に置かれた市川海老蔵に対して、冷厳な視線を送らなければならない、劇評を業とする者の残酷さを思わざるを得ない〉※〈〉は本文より引用、以下同じ。

「七月大歌舞伎」で海老蔵が演じたのは、昼の部で『加賀鳶』の道玄と『連獅子』の狂言師右近、親獅子の精。夜の部の『駄右衛門~』で、日本駄右衛門、玉島幸兵衛、秋葉大権現の3役を演じ、早替りや勸玄くんとの宙乗りを披露している。

 大ベテランの矢野さんにとっても、市川海老蔵という役者は〈まさに百年に一人現れるか否かという個性で、そういう個性を持った役者と同時代を生きることは、夏目漱石を気取れば「大變な仕合せ」〉であり〈なにをどう演っても歌舞伎にしておおせてしまう魔力を、生まれながらに身につけている〉。

 その桁外れの存在感ゆえ、梨園という閉鎖社会を軽々と飛び出し、メディアの寵児となったわけだが、さてその“親子共演”をどう見たのか。

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