百田尚樹、一橋大学の講演会中止事件を語る 「信じがたい言論弾圧」

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■「ヘイトスピーチ」の決めつけ

 大学内に講演会の看板が設置されたのは4月のことですが、その頃から抗議が寄せられるようになったそうです。5月に入ると、ARICが中止を求める記者会見を開くなど、露骨な行動に出るようになります。

 実行委員会は、それでも講演会の実現に奔走してくれましたが、ARICは「百田氏が講演会をすることは差別扇動になる」という主張のもと、独自のルールを作って実行委員会に突きつけてきました。これを守らなければ講演させないというのです。中にはこんな要求もありました。

〈百田尚樹氏講演会『現代社会におけるマスコミのあり方』に関しては、百田氏が絶対に差別を行わない事を誓約したうえで、講演会冒頭でいままでの差別煽動を撤回し今後準公人として人種差別撤廃条約の精神を順守し差別を行わない旨を宣言する等の、特別の差別防止措置の徹底を求めます。同時にこの条件が満たされない場合、講演会を無期限延期あるいは中止にしてください〉

 これまでの私の発言がヘイトスピーチであると決めつけ、それら全部を撤回し、さらに、これからも発言しないと誓えというものです。呆れてものも言えません。もちろん、実行委員会はその要求をはねつけました。

 しかしARICはそんなことで諦める団体ではありませんでした。その後も執拗に実行委員会に中止要請を行ない、大学の教員にも働きかけました(また「講演反対」の署名運動を始めていました)。

 ARICは実行委員会に対し、「脅し」に近い言葉を使っています。たとえば、彼らの交渉の場におけるこんな発言です。

「われわれと別の団体の男が講演会で暴れるかもしれないと言っている。負傷者が出たらどうするんだ?」

 これは直接的ではないにしろ、ほとんど恐喝です。やくざ映画などで親分が「わしは何もしないけど、うちの若い者の中には血の気の多い奴もいるのでな」というセリフに似ています。

 また、外国籍のある女子学生の「百田尚樹の講演を聞いて、ショックを受けて自殺するかもしれない。その時は、実行委員会はどうやって責任を取るつもりなのか?」という発言もありました。これなどは悪質なクレーマーのセリフ以外の何物でもありません。いずれにしても、手慣れたやり口です。

 対する「KODAIRA祭」の実行委員会のメンバーは1、2年生が中心です。19歳、20歳の子供たちが、こんな悪質な圧力を2カ月近く受け続け、精神的にかなり疲弊していったようです。聞くところによれば、ノイローゼ状態になった者や、泣き出す女子学生までいたようです。その結果、委員会の中にも「もうやめよう」と言い出す学生が次第に増えていきました。

 それでも「不当な圧力に屈しない」という思いを持つ委員たちは講演会を実施するために、万一に備えて警備会社に依頼することにしました。しかし反対派の執拗な圧力に、警備の規模が大きくなりすぎ、他の企画にまで影響を及ぼすほどになりました(これは実行委員会が講演中止に至った理由として書いています)。そしてついに6月2日の夜、実行委員会のメンバーのほとんどが中止にしようと決めたというわけです。私が事実を知らされたのは、中止が決まったあとでした。

 ***

(下)へつづく

緊急寄稿「なぜ私の『一橋大』講演会は潰されたのか 実行委メンバーをノイローゼに追い込んだ『言論弾圧団体』――百田尚樹(作家)」より

週刊新潮 2017年6月22日号掲載

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