84万部突破「うんこ漢字ドリル」の社会的考現学 なぜ子どもは魅かれる?

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■考案者の狙い

 文響社は、リーマン・ブラザーズ証券などでプロップトレーダーを務めた山本周嗣社長(40)が、2010年に創業。ドリルの作者は、友人で映像ディレクターの古屋雄作氏で、2年間の試行錯誤の末、二人三脚で刊行に至ったという。計3018の例文をすべて考案した古屋氏に聞くと、

「今回の企画は、私が03年に手がけていた『うんこ川柳』が原案でした。五七五ではなく四四五で『うんこをチョキチョキ刻みます』などと、オノマトペ(擬声語)を学ぶというコンセプトだったのですが、これに目を付けた社長が『川柳ではなく漢字と結び付けたら面白いのでは』とアイデアを出して始まったのです」

 実際の作業としては、

「出す以上はヒットさせたかったので、子どもたちが喜ぶ『うんこ』を、情景が浮かんでイマジネーションが広がるように登場させようと心がけました。製作時のルールとして、例文で『うんこを食べる』『うんこがくさい』あるいは茶色といった物質的なリアリティが一気に出るような語句は、避けるようにしていました」

 一方、山本社長も、

「現場の反応を知りたかったので、学習塾の先生や通う子たちに見せて聞き取り調査をし、学習参考書の専門家にも例文をチェックしてもらいましたが、最初は彼らも『こんなもの教材にして大丈夫ですか』と青ざめていました。実は、冊子の判型もうんこの形にしたくて、すでに束(つか)見本まで出来上がっていたのです」

 が、使い勝手やコスト面から半年ほど前に断念。それでも出版にこぎつけると、あとはとんとん拍子で、

「関西で電車広告を出したら、SNSで『見間違えかと思って三度見した』などと反響がありました。新聞広告はNGとなる心配があったので、事前に何度も『これは学習参考書です』と伝えましたが、地方紙の一面で全3段を出そうとしたら『中面にしてほしい』と断られたこともあった。また、テレビで取り上げられた時もアナウンサーが『うんこ』を連発してハラハラしましたが、苦情はなかったと聞いて安心しました」

 今回のドリルに限らず、これまでにも子ども向けの絵本では人糞を題名にした作品がたびたび出版されており、テレビ番組でも09年、登場キャラクターが全て糞というアニメ「うんこさん」(関西テレビ)が放映された。また11年夏には「東京うんこ」なる映画も封切られている。大人向けの書籍でも、健康本など糞をテーマにしたものがコンスタントな支持を集めているから、貴重な“コンテンツ”であるのは間違いなかろう。

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