パンチの効いた爺さん婆さんばかりで元気をもらえるドラマ「やすらぎの郷」(TVふうーん録)

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 テレ朝のシルバータイムドラマが熱い。脚本家・倉本聰の渾身の一撃「やすらぎの郷」に、真っ昼間から心躍らされているからだ。

 都合のいいように使い倒すテレビ局や代理店に真っ向から喧嘩を売り、芸能大手事務所の横暴と支配に触れ、芸能界の悪しき慣習(枕営業)も暴く。すべて脚本に乗せ、役者陣の口から吐き出させる。まさに倉本砲。

 喫煙に不寛容な現代社会への反抗も盛り込むし、介護疲弊を口にできない空気感(閉塞感)にも物申す。太陽光、風力に人糞を使った自然エネルギーによる発電をアピールするし、今後はきっと政権批判も展開するに違いないと思わせる。

 端的なセリフ(冗長ではないのが橋田壽賀子との大きな差)には、倉本聰が長らく溜め込んできたであろう小言と鬱憤がこれでもかと詰め込まれている。主演の石坂浩二はイタコと化し、毒と煙とぼやきを吐きまくり。チクチクと嫌みを練り込みつつも、なんだかおかしい。シニカルでコミカル。真っ昼間に20分も観てらんねーわという働き者の皆様のために、物語を少し解説。

 脚本家の石坂浩二は、元女優の妻(風吹ジュン)が認知症だった。徘徊も始まり、介護するために連ドラの仕事を降りたことも。妻の死後、東京を離れ、老人ホーム「やすらぎの郷」に入園することに。そこはテレビ業界で功績を残した人だけが無料で入れるという謎の施設だ。芸能界のドンと呼ばれる人物が設立した施設で、超豪華な老人ホームである。

(C)吉田潮

 石坂の知人や友人も、実はすでに入っていた。賭博行為で姿を消した俳優(ミッキー・カーチス)や時代劇で大ブレイク後、飽きられて復活を果たすもまた大ゴケ、居酒屋経営も失敗した俳優(山本圭)も。さらには私生活が面倒くさそうな大女優がぐっちゃり。石坂は女優陣に「脚本を書け」と迫られ脅され、平穏ではない日々を送るのだった。

 女優陣の競演がこれまた凄い。エグイ。興味深い。

 わがままが度を越して、支離滅裂になっている女優の浅丘ルリ子。独特のアイメーク(下睫毛(したまつげ)を皮膚に直接描く斬新な手法)は、観る者の言葉を失わせる。素顔を見た者は焼き殺されそうな勢い。メークの迫力で気位の高い女を熱演する。

 ルリ子に対抗心を燃やすのは加賀まりこ。本音と正論をズバズバ言う演技派女優という役どころ。お色気と胡散臭い霊媒で、人の心の隙間に入り込む五月みどりに、施設では古株、おっとり「姫」女優の八千草薫。元気ハツラツ、海で素っ裸になって泳ぐこともあるという野際陽子に、今後詳細が明らかになる有馬稲子。 

 とにかく欲望に正直で、主語が「私」の婆さんばかりだ。流されない、芯の強い婆さんになりたいと常日頃から願う私は、テレビドラマでこんなに素敵な「婆サンプル」をたくさん見られることがありがたい。だいたい日本の映画とドラマは若すぎるのよ、全体的に。今を生きる前向きな爺と婆を見たかったので、この作品はどストライクだ。若くてぬるい朝ドラよりも、この「老いドラ」に興味津々。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年4月27日号掲載