著名人たちも声を揃える、「介護殺人」を招く「在宅介護」の問題点

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■安藤優子、荻野アンナも声を揃える

 同じく認知症の母親の介護を体験したニュースキャスターの安藤優子(58)は、用もないのに母親から30秒に1回は名前を呼ばれる過酷な在宅での介護を3年ほど経た後に、施設介護に切り替えた。

「在宅介護を始めた時から、いずれ無理が生じることは目に見えていたんですが、やはりどこかで『子どもが親の世話をするのは当たり前』という伝統的な価値観がすり込まれていたんだと思います。私たち姉兄を頑張って育ててくれた親を施設に入れることに、得体の知れない罪悪感があり、だからこそ在宅介護を限界まで続けてしまった。『介護殺人』に出てくる人も、みんな『SOS』を発することができずに、ギリギリまで頑張ってしまった人たちでしたよね」

 母親を約4年間、在宅介護した経験を持つ歌手の橋幸夫(73)はかつて、

〈昔は三世代で同居するのが普通のことで、老人の面倒を見るのは、子や孫にとって当然の務めでした〉

〈おじいちゃん、おばあちゃんがボケてきたら、助けながらいっしょに暮らしていけばいいんです〉

〈経済的な問題もありますが、在宅介護ができるなら、それに越したことはありません〉(「文藝春秋SPECIAL」14年春号)

 と語っていたが、現在改めてこう語る。

「身内が介護をすると、以前とすっかり変わってしまった姿を目の当たりにせざるを得ず、哀しくなり、悔しくなり、イライラします。僕自身、玄関にこんもりと大便を残すなどした、変わりゆく母の姿を見るのは本当に辛かった。しかし、一生懸命に介護しても認知症の介護対象者からは、労(ねぎら)いどころか罵声を浴びせられる。だから、在宅介護は難しいのではないかと今では思っています」

 もちろん、

「経済面や体力面などを考えて、余裕を持って介護できる家庭もあるでしょう。しかし、恵まれている家庭はごく一部で、『介護殺人』の方々がそうであったように、実際にはいろいろな問題を抱えている家庭のほうが多いわけです。今後10年で、ますます団塊の世代が介護される局面が増えていきます。このままでは、10年後には介護殺人がもっと発生している可能性が高いでしょう。常に家族の誰かが家にいて、介護を分担できた大家族時代に戻すのは非常に難しいわけですからね」

 こうして、体験者が声を揃える在宅介護の限界。他方で、第三者に預けるのもまた一苦労であることが、問題を複雑にしている。

 事実婚のパートナー、父親、母親と、3人の介護をした作家で慶応大学文学部教授の荻野アンナ(60)は、

「心不全の上に、認知症ではないものの忘れっぽくなっていた父親を病院に入れたんですが、今の日本の病院は、ある程度回復すると退院しなければなりません。だからといって、必ずしも次の病院を紹介してくれるとは限らない」

 として、こう振り返る。

「事実、父が91歳で入院した病院は、『前でひとり、後ろでひとりサポートすれば、お父さまは歩けるので退院しましょう』と言ってきました。すでに母は腰を悪くしていましたし、私も昼間は仕事ですから、そんなサポートはできません。『次に入るところを見つけてくれなければ、父をこの病院に爺捨(じじす)てします』と、主治医を“脅迫”して、何とか次のリハビリ病院を紹介してもらえましたが……」

 無論、介護対象者を預かるほうにも事情がある。

〈特養(特別養護老人ホーム)13% 空きベッド/民間調査 職員不足で対応困難〉(3月12日付毎日新聞)

 深刻な人手不足である。それも一因となって、

〈介護職員の虐待408件/15年度調査 高齢者被害9年連続最多〉(同月22日付毎日新聞)

 という事態に陥っているのだ。(文中敬称略)

 ***

(7)へつづく

特集「『橋幸夫』『安藤和津』『荻野アンナ』『安藤優子』『生島ヒロシ』他人事ではなかった『介護殺人』の恐怖」より

週刊新潮 2017年4月6日号掲載

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