V2も見えた! 強すぎるカープ打線の立役者は“生涯赤ヘル人生”の東出輝裕

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カープってみんなで育てるんです、と話す(2017年3月)

 昨年の覇者、広島東洋カープの勢いが止まらない。引き分けを挟んだ破竹の10連勝など、17試合を消化した4月19日終了時点で、落とした試合はわずか4試合。早くもV2予想が出るほど、とにかく強い。

 チーム打率はぶっちぎりでリーグトップを誇る2割8分、得点数や本塁打数でも他の追随を許さない。

 今季も大型補強を行わず、若い選手を育成するカープの強さはどこにあるのだろうか。長年プロ野球取材を続け、『すごい!広島カープ 蘇る赤ヘル』などの著書があるノンフィクション作家・赤坂英一氏は「新潮45」5月号掲載の記事でこう綴る。

〈中心選手の新井(貴浩)、優勝を機に引退した黒田博樹ばかりが注目されている最近のカープだが、実はチーム打率が前年(2015年)セ・リーグ5位の2割4分6厘から12球団一の2割7分2厘まで上昇したことを見逃してはならない。ここまで打線全体をレベルアップさせた功労者のひとりが、一軍打撃コーチ“1年生”の東出(輝裕)だった〉※〈〉は本文より引用、以下同

■万年Bクラスの生涯赤ヘル人生

 東出といえば、長年のカープファンにとっては忘れられない存在だろう。1998年のドラフト会議で、カープは二岡智宏を1位指名する予定でいた。ところが、二岡は逆指名制度を使って巨人に入団を決めてしまう。そこで急遽1位指名されたのが東出だ。

 小柄ながら俊足巧打の東出は1年目から一軍で活躍し、翌年にはレギュラーに定着。以後、故障するまで14年ものあいだ主にセカンドとしてレギュラーを守り、日本代表にも選ばれた。しかしその14年間、カープは、優勝はおろかAクラスにさえ一度も入っていない。江藤智が、金本知憲が、新井貴浩が、次々とFA宣言をして優勝を狙えるチームに移籍していくのを横目に、少年時代巨人ファンだった東出は、カープ一筋で現役を終えた。

 2015年、石井琢朗打撃コーチの希望もあり、現役引退した東出は一軍打撃コーチに就任。打撃練習を抜本的に見直し、かつてないほど激しい練習メニューを組んだことで、四半世紀ぶりに広島カープはセ・リーグの覇者となった。同記事で、赤坂氏は本人に直取材をしている。

〈正直、悔しくなかったか。野球人ならせめて、選手でいるうちに優勝したいとは思わなかったか。昨年9月10日、東京ドームで読売ジャイアンツに勝ち、打撃コーチとして優勝の瞬間を迎えたとき、何を感じていたのか。私の問いに、東出はこちらの目を真っ直ぐ見て答えた。

「うれしかったですよ。本当にうれしかった。あの喜びは、選手のときより大きかったんじゃないかな」〉

■伝え育てるカープ式指導法の申し子

 コーチとして優勝の喜びを噛み締める東出には、重要な役割が与えられていた。昨年「神ってる」と話題をかっさらった鈴木誠也もしかり、大型補強をしないカープでは若い選手を育てなければいけない。緒方監督(48)や石井琢朗コーチ(46)の言葉を若い選手にもわかるように噛み砕いて伝える、いわば通訳のような役割を36歳の東出が担っているのだという。

 就任2年目を迎えた今季の開幕直前、赤坂氏に東出は以下のように語った。

〈「今年は安部、堂林がグッと伸びてますよ。若いといっても、安部が10年目、堂林が8年目で、高卒でプロ入りしてから相当な年数が経ってますけどね。他球団ならトレードに出されるか、クビになってもおかしくない。そういう時期にさしかかっても、ウチではみんなが頑張れ頑張れって、辛抱強く育てようとする。カープってそういうチームなんですよ」〉

 安部は4月19日時点で出塁率3割6部6厘、堂林は代打での出場が主だが、11打数5安打の打率4割5分5厘と、チームの好調を支えている。忍耐強く伝え育てるカープ式指導の賜物だ。

 暗黒時代を支えてきた東出輝裕こそ、今のカープを語るうえで外せない存在であることをぜひ「新潮45」5月号掲載「カープ打線大躍進を担う『小さな赤ヘル』東出輝裕」で確かめていただきたい。

デイリー新潮編集部

新潮45 2017年5月号掲載

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