塩野七生が語る「トランプ時代」の日本の針路

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■“排除”のスパルタ、“解放”のアテネ

古代ギリシアの歴史年表

 ――本作では、ペリクレスについて多くのページが割かれています。ペリクレスは(アテネ率いるデロス同盟とスパルタ率いるペロポネソス同盟との戦争である)ペロポネソス戦役の第1年目に、有名な演説でこう語っています。「彼の国は外国人を排除することによって国内の安定を計るが、アテネでは反対に、外から来る人々に対して門戸を開放している。他国人にも機会を与えることで、われらが国のより以上の繁栄につながると確信しているからだ」。

 ペリクレスの言う「彼の国」とは、スパルタを指すわけですが、現在トランプのアメリカを筆頭に、先進国はスパルタと同様、次々とドアを閉じる誘惑に負け始めています。この現象をどう見たらよいでしょうか。

塩野「トランプの出現で先進諸国はドアを閉じる誘惑に負け始めているらしい今、日本はどうそれを乗り越えればよいか、と問われても、前問と同じような答えしか浮かんできません。

 つまり、閉じた方が日本のためになると思うならば閉じる。反対に、日本の将来を考えれば、開いた方がトクになると思えば開く、ということです。

 とはいえ、短期的に見れば、閉鎖路線の方が成功する。なぜなら、アメリカ・ファーストとは、ショック療法でもあるのだから。

 しかし、長期的視点に立つならば、閉鎖路線は国力の衰退につながることは確か。中でもアメリカ合衆国では、とくにそう。他国や他国人という異分子による刺激なしには、新たなる飛躍は絶対に成し遂げられないのです。だから日本も、トランプの短期的成功などには惑わされず、開国路線で行ったほうがトクと思う分野は堂々と開くことですね」

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(2)へつづく

特別寄稿「塩野七生『ギリシア人の物語II』刊行!『トランプ時代』の日本の針路 前編」より

週刊新潮 2017年4月6日号掲載

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