「金正男」長男の告白ビデオ 北朝鮮への3つのメッセージとは

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1987年11月

 メッセージその1に続き、国名を伏せた理由がその2に繋がっている。

「韓国に助けられたとなると北の暗殺の対象となってしまうから。中国からオランダを経由し、最も安全なアメリカにいると私は見ています。北の崩壊を見据えたアメリカがカードとして彼を求めた、要するにハンソルの亡命宣言なんです」(同)

 事実、金正日の甥で韓国に亡命し、金王朝に関する暴露本をものしていた李韓永が銃撃されたのちに死亡しているし、累計3万人超の脱北者に交じる恰好でいまもなお工作員が南進してきているのだ。そんななか、

「1987年11月のことを思い出しました」

 と振り返るのが、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏。

「大韓航空機爆破事件が起きたのは、大統領選を1カ月後に控えた時期でした。その後に自殺し損なった金賢姫が韓国側に引き渡されるのが12月15日。大統領選の前日にわざわざ設定し、保守候補の盧泰愚に勢いをつけるものでした」

 爆破事件そのものは北の謀略に他ならないが、その後の処理は、「北による赤化」と対峙してきた国情院がまさに「北風を吹かせた」とも言えるわけだ。

 本誌(「週刊新潮」)は9号で、金正男暗殺犯について国情院OB説を唱え、大要こう記した。

〈朴政権のあとにできるのは急進的な左翼政権。当然、いままでよりも北と近い。常に「北=魔の帝国」でなければならない国情院にそれは悪夢。北の仕業に見せかけ近未来の蜜月関係を回避したく、そのため、国情院における極右的な陣営のOBなどが金正男暗殺を仕掛けたのではないか〉

 北への底なしの敵愾心。これがメッセージその3である。父を殺害して北を走らせ、息子を庇護下に置き、更に北を刺激するかのような「国情院犯行説」を見るにつけ、「どのアラビアの香料もこの手から血の臭いは消せない。ああ!」と夢遊病のなかで呻いたマクベス夫人の運命が頭を過るのだ。

ワイド特集「我が世の春」より

週刊新潮 2017年3月23日号掲載

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