「クロネコヤマト」残酷物語 アマゾン業務で疲弊、1日250個配達も

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「残酷」の入口は「不在票」

 翌日には品物が届く。時間を細かく指定でき、不在なら何度でも届けてくれる。そんなクロネコヤマトの至れり尽くせりのサービスの背景には、実は残酷物語があった。それどころか、残酷物語がゆえに、サービスも事業自体も破綻の危機に瀕していたのである。

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 たしかに立派な黒ネコである。〈ときどき爪を出して僕の心をなやませる〉ことはないし、〈ネコの目のように気まぐれ〉であるどころか、たとえばネット通販で何かを買えば、早ければ翌日には自宅に届く。しかも配達時間を午前中、正午〜午後2時、午後2時〜4時……と、午後9時まで細かく指定できるのだ。

 さすがは「一歩前へ」とCMなどでも謳っていた通り、同業他社とくらべても、われわれ消費者のかゆいところにネコの手が届くサービスぶりだが、少々やりすぎたか、今では“クロネコ”のサービスが破綻の危機にあるというから、聞き捨てならない。

 先日も、ヤマトホールディングスに社員への巨額の残業代未払いがあると報じられたが、いったいなにが起きているのか。

 試みに都内にあるヤマトのさる配送センターを覗くと、目に飛び込んできたのは、コンクリートの床に膝をついて伝票を整理しながら、真っ黒に汚れた手で白いサンドイッチをつまむ30代のセールスドライバー(SD)の姿だった。

「いつも食べられるときにこんなふうに食べるって感じですね」

 SDの周りにいる女性のパート従業員がだれもそれを気にする素振りを見せないのは、日常の風景だからだろう。だが、サービス残業について質問すると、

「社内文書でお触れが回っているんだよ、社の利益にならないことは勝手に喋っちゃいけないって」

 よほど隠したいことがあるのだろうか。

 宅配便業界で45%を超えるシェアを誇るヤマトに異変が起きたのは、2014年だった。この年、荷物の年間取扱個数は前年の14億8000万個から16億6000万個に急増したが、

「この前年、ネット通販大手のアマゾンジャパンが、佐川急便からヤマトに配送業務を切り替えたんです」

 と、経済誌の運輸業界担当記者が解説する。

「以降、荷物はヤマトに集中するのに、SDへの応募者は少ない。ヤマトのSDは5万4000人と言われますが、全然足りていない。また、荷物の再配達率は国交省の調べでは2割ですが、今や荷物全体の4割〜5割を占めるというネット通販の荷物は、購入した人が何度行ってもいないことが多く、どんどん溜まってしまう。だから、配達を前倒しや、後ろ倒ししてやりくりしているのがSDの実態です。それに対して労基署から指摘があって、今回の問題になったわけです」

 ヤマトホールディングスの広報によれば、

「ドライバーが持つ携帯端末に電源を入れたときと切ったときで、労働時間を計っています。加えてタイムカードを出勤時と退社時に押してもらい、その2点で労働時間を管理していましたが、それでもサービス残業があったというので、2月1日にヤマト運輸に働き方改革室を設置し、SDを中心に実態を調査し、万が一のときは費用をお支払いしようという流れです」

 要は、携帯端末に電源を入れる前や切った後にも配達しなければ、仕事をこなせない実態があったのだ。

 先の経済誌記者の話。

「離職率は業界全体で4割近い。この人でなければできない、という仕事ではないだけに、低賃金、長時間労働につながりやすい。それでも利益率は年々低下しています。雇用はままならないのに荷物は際限なくやってくるので、さばくために外部委託せざるをえない。荷物は去年4月から今年2月までで8%増え、その分の配達はほとんど外部委託。その費用が今年だけで150億円も増えました」

 それなのに、なぜ料金を値上げしなかったのか。

「バスやタクシーの運賃と違い、トラックでの運送は最低価格が決められていない。だから価格はジリジリと下がるばかりでした。ようやく値上げを検討していますが、値上げに慣れていない客が離れる心配があり、痛しかゆしです」(同)

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