世界中のインテリが絶賛する『サピエンス全史』著者、ハラリ氏が語る人類の「幸福」とは

IT・科学2017年1月13日掲載

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歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏

 本の山が溶けるように連日無くなっていきます。全国も品切れ続出とか(紀伊國屋書店新宿本店ツイッターより)――。1月4日にNHK「クローズアップ現代+」で池上彰さんによる著者インタビューが放送されて話題沸騰、日本でも大ヒットとなっている世界的ベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』の著者で歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏。新潮社の季刊誌『考える人』冬号でも、特集「ことばの危機、ことばの未来」の中の1本として単独インタビューを掲載しています。

 アフリカで細々と暮らしていたホモ・サピエンスが、ネアンデルタール人ら他の人種を抑えて、食物連鎖の頂点に立ち、文明を築くことができたのはなぜだったか? ヘブライ大学のハラリ教授は、ホモ・サピエンスが獲得した「ことば」によって物語を共有することができたのが成功の鍵だったと語ります。

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■人間だけが得た「物語を信じる力」

「現在、人間は地球をコントロールしています。なぜこれが可能になったか。数ある動物のなかで人間だけが大規模、かつ柔軟に協力しあう能力をもっているからです。協力しあえる動物は他にもいます。たとえばアリやハチのような社会的動物。でも彼らは柔軟に変化することができません。同じ行動を繰り返すだけで、変化があるとしたら何百年もかけて世代を超えた進化が必要です。一方で人間は、フランス革命のように短期間に社会システムを変更することが可能です。チンパンジーやイルカ、ゾウなどの社会的ほ乳類は、アリやハチよりも柔軟に協力しあうことができますが、その規模はせいぜい100匹や100頭程度に限られ、1000の単位になることはありません。なぜならチンパンジーなどの協力は、互いの性格を知り、信頼できる親密な関係でしか起きないからです。人間がユニークなのは、見ず知らずの関係であっても大人数で柔軟に協力しあえることです。

 では、人間にはなぜそんなことができるのでしょう。本の中で私が示した解答は、言語であり創造力であり、架空の物語を作り上げ、みんなが同じ物語を信じられるようにする能力です。みんなが同じ物語を信じることができれば、同じ規範や価値に従って協力できるのです。
 何であれ大規模に人間が協力しあうものを考えてみると、宗教、政治、経済……あらゆる活動分野で何らかの架空の物語をみつけることができます。神、国家、金銭……こうした物語を共有することが人間特有のユニークな能力です。たとえばチンパンジーに、良い行いをすれば死後チンパンジー天国でたくさんのバナナを手に入れられるから、いまその手にあるバナナを寄越せといっても説得することは不可能でしょう。でも、人間はそれを信じることができる。何百万もの人間が力をあわせて教会やモスクを建てたり戦争したりできるのです。「これをやれば天国に行ける」と信じるから、そんなことができるのです。

 宗教だけでなく経済でも同じことがいえます。金銭は歴史上もっとも成功した“物語”です。マネーには実体があると思いがちですが、円やドルは、それ自体、食べることも飲むこともできない。蔵相や銀行家といった強力な「語り部」がやってきて、この紙切れは10本のバナナに相当するのですよ、と語り、みんながそれを信じるならば金銭は機能する。」

■「物語」の奴隷にされてはいけない

 そんな能力がありながら、なぜ人類はもっと良い社会をもてるような物語を作ることができないのでしょう? ハラリ教授にそう問いかけてみました。

「大切なのは物語と現実を分けて考えることです。物語そのものが悪いわけではない。それがなければ社会は機能しないのですから。人々が金銭を信じなければ経済は崩壊するでしょう。大事なのは、物語を私たちの役に立たせること。私たちが物語の奴隷にされてはならないのです。信じる物語が違うからといって戦争で殺し合うようなことになってはいけない。私はイスラエルの出身ですが、パレスチナとイスラエルは何十年にもわたって争いを続けています。この紛争は領土をめぐるものでも、食糧をめぐるものでもなく、物語をめぐる争いです。イスラエルにはイスラエルの物語があり、パレスチナにはパレスチナの物語がある。合意できないから戦う。こうなってしまうと、物語は私たちの役に立ちません。

 大事なのは現実と物語を峻別すること。それには、様々な方法がありますが、私にとっていちばん良い試金石は「痛み」があるかどうか。何が「現実」で何が「物語」かを識別するためには、痛みを感じるかどうかを考えてみる。たとえば、金(カネ)は痛むか、国家は痛むか。敗戦によって国家は苦しむと思うかもしれないけれど、痛むのは国民であって国家ではない。日本が第二次世界大戦に負けたとき、苦しんだのは国家ではなくて日本の人々です。つまり、人や動物は痛むから現実だけれど、金や国は発明された物語でしかない。人間にとっての良い物語とは、世界の痛みを減らすものです。」

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 人類の「幸福」について、サピエンス全史を踏まえて考えたハラリ教授の口から出た、「世界の痛みを減らす物語」こそが人類にとっての良い物語であるという言葉は、本当に強い力を持ったものでした。この後、さらにハラリ教授は、「真の幸せ」を見つけるための方策や、人類の未来を見据えた新作“Homo Deus: A Brief History of Tomorrow”についても語ってくれました。

 ユヴァル・ノア・ハラリ氏の単独インタビューは現在発売中の「考える人」冬号にて掲載中です。

デイリー新潮編集部