がん補習講座 米国では6割が選ぶ放射線治療、日本では3割弱――中川恵一(東京大学医学部附属病院准教授)

ライフ週刊新潮 2016年10月6日号掲載

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 長寿大国として知られる日本だが、欧米でのがん・がん死が減少傾向にあるのに比べ、がんによる死者は増え続けるばかり。その背景には、間違った情報や迷信が日本人の固定観念になっていることがあった。子供たちに正しい知識を授ける「がん教育」が全国の学校で始まるのに先立ち、東大准教授の中川恵一氏が、大人のための「補習講座」を開講。前回紹介した「原因」「予防」に続き、今回は「治療」を説く。

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 さて、これまでは検診の重要性について述べてきました。しかし、授業ではがんが見つかってからのことも教えます。ご存じのように、治療法には3つの柱がある。手術によって切除する外科療法、抗がん剤を使う化学療法、そして放射線を照射する放射線療法です。

 ただ、テレビドラマなどでの一般的なイメージはまず手術。医療ドラマの主人公はだいたい外科医です。合わせて抗がん剤を投与され、副作用で頭の毛が抜けてしまうといったところでしょうか。放射線治療は、まったくドラマチックじゃないから、あまり登場しません。でも、私が放射線科医だから言う訳ではありませんが、ここでは、放射線治療のことについても触れておきたい。

大掛かりな外科手術は職場を長期間離れる事になり、社会人としてダメージにならないか(写真はイメージ)

 たとえば今、男性の平均寿命は81歳。しかし、健康な状態で過ごせる「健康寿命」でいうと71歳です。65歳定年制が一般的になってきた時代においては、ハッピーリタイヤを楽しめる期間は6年ほどしかありません。多くの人は亡くなる数年前まで働くわけで、当然、サラリーマンでありながらがん患者になることもごく当たり前の時代がやってきているわけです。

 しかし、そんな時代に「白い巨塔」や「ブラック・ジャック」のような治療で良いのでしょうか。大掛かりな外科手術と抗がん剤で何週間も職場から離れるのは、社会人としてダメージにならないか。

 これが米国ですと、告知を受けて、まず、放射線治療を選ぶ患者さんは6割にのぼります(日本は3割弱)。外科手術や抗がん剤治療と比べても治療成績が遜色ないからです。何より9割の患者さんが通院で済ませている。前立腺がんでは、ほぼ100%通院です。

 私がお世話している病院では夜10時まで放射線治療を行っているところがあります。そこにやって来る患者さんは夜7時に会社を退社して8時に来院、治療を受ける。そして、翌日、普通に出勤しています。なかには会社に黙って通院している人もいる。

 皆さんの職場には何人の同僚がいるでしょうか。2人に1人ががんになる世の中では、がん患者が隣の席にいることも当たり前なのです。

 さて、今年も定期検診の季節です。知識を持って受診するのと、そうでないのとでは、気持ちも違ってくるはずです。がんと闘った作家の江國滋さんは、生前こう詠んでいます。

〈おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒〉

 がんが避けられない病気だとしても、なるべくがんにならないように、そしてがんになっても助かるように、私たちはその姿かたちをよく知っておきたいものです。

特別読物「2人に1人が罹患の国民病! 日本人のためのがん補習講座」より

中川恵一(なかがわけいいち)
1960年生まれ。東京大学医学部卒、スイス・ポール・シェラー研究所を経て現職。放射線医としてがん患者の治療に携わる一方、全国でがんの予防と治療の啓発に関する活動を行う。主な著書に『がんの練習帳』(新潮新書)など。