プーチンがロシア最大の石油会社〈ロスネフチ〉の株を日本に渡さなかったワケ

国際 2016年12月13日掲載

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トランプ大統領誕生も影響しているよう((c)新潮社/Copyright by World Economic Forum Photo by Remy Steinegger・Wikimedia Commons)

 プーチン来日を8日後に控えた12月7日、そのニュースは日本の関係者たちに大きな衝撃をもたらした。

《スイスの大手資源商社グレンコアがカタール投資庁と共同でロシア最大の国営石油会社ロスネフチの株式19.5%を102億ユーロ(約1兆2400億円)で取得すると発表》――

 額面から見れば超大型の取引であるには違いないが、一見するだけでは日本とは直接かかわりがないように思える。しかし日本の、こと官邸周辺では「やはり……」という声とともに落胆にも近いため息が漏れたという。官邸詰め記者が言う。

「今年9月、日経新聞が“ロシアの石油会社〈ロスネフチ〉の株式約10%を日本のJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が最大1兆円で買おうとしている”とスクープしたのです。これについて菅官房長官は会見で即座に否定しましたが、実際のところ政府はJOGMECがロスネフチの株を取得できるよう法改正まで行った。額を見れば分かるように、事実上北方領土を巡るロシアの経済支援の最大の柱になるハズでした」

 つまりは日本が買うことでロシアに恩を売って、北方領土交渉に弾みをつけるハズだったものが、気が付けばスイスの商社にさらわれてしまったということ。

「当初ロシアは日本の他に中国やインドにもオファーしているという情報も流れていましたが、ここにきて売却予定の19.5%すべてがグレンコアに渡ってしまうというのは、想定外だったのでは。半分でも残っていれば、まだ食い込む余地はあったかもしれませんが、ゼロではねえ。経済協力とはいいながらも、シベリアでいくら風車を建てたとしても、1兆円には到底及ばないですよ」(同)

 と、記者は官邸周辺の心もちを代弁してくれるのだが、ロシアがある意味での“ちゃぶ台返し”をしたのには、ロシアなりの理由があったという。日本側の当事者になるはずだったJOGMEC関係者が次のように説明してくれる。

「11月にOPECが原油の減産を決めたとはいえ、ウクライナ問題で制裁を受けるロシアの財政状況は逼迫していた。また、向こうの法的手続きの関係上、12月中にはカタをつける必要があったため、動きの速いグレンコアに売却を決めたのです。ロスネフチは西側の制裁対象の企業ですから、仮に日本が株を取得することになっても、アメリカその他いろんなところに承諾を得なければなりませんからね」

 ――というのは、あくまでも表向きの事情のようで、さらに根深い国際関係が絡んでいるとの見方もある。

「端的に言えばトランプですよ。以前からアメリカのさる石油大手がロスネフチとの提携を模索していたのですが、制裁を発動したオバマ政権下ではそれが不可能だった。しかしトランプに変わると緩和される可能性が出てくる。さらにいえばその会社、トランプとも密接な関わりがある。ロシアはこれまで米露交渉の“つなぎ役”、場合によっては“交渉材料”として日本を利用してきたフシがありますが、米露が接近するとどうでしょう……領土問題であれこれ言ってくる日本は、ただ面倒なだけの存在ですよね」

 結局のところ、今後日本がいくらロシアに尽くそうとも、1兆円の“大型支援”、にはほど遠く、いつまでたっても、「まだ信頼関係は醸成されていない」……つまりは、「まだ足りない」と言われ続けて、2島はおろか、交渉自体がビタッと停滞する可能性が出てきたのである。事実、これを裏付けるように、この11月、APECの場で安倍首相と直接会談したプーチンは「そう簡単な課題ではない」と言って予防線を張っているし、この直後には日本との直接交渉の窓口になっていたウリュカエフ経済発展相が汚職で逮捕されている。

「プーチン承諾のもと1年以上の内偵の末、現行犯逮捕というのですから。そんな人物を日本に充てていたというだけでロシアの姿勢は明らかです」(先の官邸詰め記者)

 いよいよ日本にやって来るウラジーミル・プーチン。かつてKGBの工作員として数々の難局に当たってきた百戦錬磨の男は、果たして何をしようとしているのか――ゴスダルストヴェンニチェストヴォ――この謎のロシア語は近刊『プーチンの世界――「皇帝」になった工作員』に記されているが、この意味を理解した時、プーチンの次の一手を知ることが出来るかもしれない。もちろん知った先が「絶望」でない保証はないが……。

デイリー新潮編集部