中村勘三郎さんの「食道がん」治療は正しかったのか――知っておくべきステージIIIの生存率

ライフ週刊新潮 2016年12月8日号掲載

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勘三郎さんの選択

 先ほど紹介した事例については、12年12月に鬼籍に入られた歌舞伎役者・中村勘三郎さんのものとも重なっているので、振り返ってみることにしましょう。

 すでに4年が経過しようとしている今もなお、「勘三郎さんの食道がんは放射線治療の方がよかったのか」と問われることがしばしばです。その際に私は、「抗がん剤を併用した化学放射線療法を選択していたら状況は違っていたかもしれない」とお答えしています。

 実際に、局所で進行したステージIIIの食道がんに対して、ほぼ手術のみで勝負した場合、前掲データの5年生存率は、34%(445例)。

 つまり、いくら名医が執刀したとしても、おおよそこのあたりで頭打ちだとも言えます。

 そこで、全身治療である抗がん剤を手術に組み合わせる戦略が検討されるようになりました。手術前に抗がん剤治療を行った患者集団(術前化学療法)vs 手術後に抗がん剤治療を行った患者集団(術後化学療法)を比較したエビデンスがあります。患者330人を対象とした5年生存率は、 

・55% vs 43%

 となり、術前化学療法の成績が上回りました。だから、手術を軸とした治療を選択する際には、術前化学療法が「推奨される標準治療」となっています。勘三郎さんもこの治療方針を選択されたということです。

 続いて、放射線治療を軸とした、抗がん剤を併用する化学放射線療法の方も見てみましょう。患者76人を対象とした際に、

・食道がんが見かけ上消失したのが62%

・5年生存率は37%  

 手術ではないこの治療法は、臓器を温存したまま、QOLを大きく落とさずに社会復帰ができる重要な治療オプションではある。けれど、手術を軸とした術前化学療法の長期的な生存成績より間接的には劣ることもデータは示している。

 これらの結果を踏まえたうえで、一時的な社会復帰よりも可能な限り、「治ること」を目指し、勘三郎さんは前向きに意思決定をされたのだと当時は思っていました。しかし、その後の報道を参照すると、右肩付近のリンパ節に転移を認めるほど、前記エビデンスには相当しない、もはや全身病に近い位にかなり進行した食道がんだったようです。

 最初から「手術ありき」ではなく、ご本人の価値観も尊重しながら、多職種によるフェアな議論がなされたうえで手術という方針が最善だと判断されたのか。その過程には甚だ疑問が残るのです。

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 がん難民にならないための「セカンド・オピニオン」(3)へつづく

大場大(おおばまさる)
1972年、石川県生まれ。外科医、腫瘍内科医。医学博士。東京大学医学部附属病院肝胆膵外科助教を経て、2015年、がんのセカンド・オピニオン外来を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に 『がんとの賢い闘い方「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)、『大場先生、がん治療の本当の話を教えてください』(扶桑社)などがある。

特別読物「がん難民にならないための『セカンド・オピニオン』――大場大(東京オンコロジークリニック代表)」より

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