“人権派”スー・チー女史、自国軍の少数民族弾圧には慎重姿勢

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〈スーチーさん待ってます〉〈ようこそ、スーチー国家顧問〉――いずれも、朝日新聞がミャンマーのアウン・サン・スー・チー女史(71)来日に伴って付けた記事の見出しである。動物園に新しいパンダが来たかのような書きっぷりだが、かの国では少数民族への弾圧が進行中。しかし、“人権派”の彼女はこれに冷たくて……。

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ミャンマーのアウン・サン・スー・チー女史

 3月に所属政党「NLD」が政権を発足させて以来、ミャンマーの実質的な最高指導者であるスー・チー国家顧問兼外相が来日したのは初めてである。これに安倍首相も応えて、8000億円の支援を約束。この巨額の手土産は、彼女の国際的名声がなせる業であろう。

 ところが、だ。

「スー・チーは頑張っていると思います。だけど政権を取っても、私たちの状況は何も変わっていないよ」

 と言うのは、在日ビルマロヒンギャ協会のアウン・ティン副会長である。

 ミャンマー西部のラカイン州に住む少数民族「ロヒンギャ」は、イスラム教徒であることなどから、仏教徒が9割のミャンマーの国軍から迫害を受けてきた。

「子どもは殺され、女はレイプ。家は燃やされ、財産も奪われた。難民は14万人を超え、この1カ月で殺されたのは200人以上です。中には生後半年の赤ん坊、1歳や2歳の子どもも含まれています」(同)

 当然、国連もミャンマー政府に勧告を出している。しかし、軍政時代はもちろん、スー・チー女史も、残虐行為の中止に積極的な姿勢を見せてきていないのだ。

■レイプと火あぶり

 25年前、彼女がノーベル平和賞を取った時の受賞理由は、「ミャンマーの民主化と人権向上のための非暴力闘争」である。

 このイメージとは、ずいぶんとギャップを感じるが、

「カチン問題についても、はっきりとした意見表明がないのが非常に残念です」

 と、NGO「ヒューマン・ライツ・ナウ(HRN)」事務局長の伊藤和子弁護士。

 カチンは北部の州。ここに住む少数民族カチン族はキリスト教徒が多いこともあって、ミャンマー国軍との間に紛争が続いてきた。

 HRNのレポートによれば、その中で国軍により、

・レイプ(4年で100件)
・超法規的殺人
・強制労働(性奴隷を含む)
・土地や建物の略奪
・拷問(火あぶりなど)

 などが起きているという。

「彼女は国際的影響力が大きいですから、強くメッセージを発してほしい。逆に曖昧な態度なら、先進国も同じ対応になります。これに目をつむるということがあってはならない」(同)

 政権を取ったとはいえ、現行憲法下では、軍が主要3閣僚と議会の4分の1を確保する制度が担保されている。言わば、ミャンマーは二重権力状態にあり、スー・チー女史も蛮行を続ける軍に配慮せざるを得ない。

 更には、『本音でミャンマー』の著者でジャーナリストの寺井融氏は言う。

「少数民族についても、彼ら寄りの政策を取ると、仏教徒たちの支持を失い、矛先がNLDに向かう恐れがある。そのために慎重な対応を取っているのでしょう」

 その判断の是非は別にして、もしスー・チー女史に無垢な「人権ジャンヌ・ダルク」のイメージを持っているのならば、一度その“固定観念”は取り払っておいた方が良さそうなのは確かである。

ワイド特集「神帰月の超常現象」より

週刊新潮 2016年11月17日号掲載

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