動かないパワポで大問題&何かとPR動画を作りたがる自治体…広告業界の「クライアントというバカ」

国内 社会 週刊新潮 2016年11月10日神帰月増大号掲載

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■私が見てきた「電通と博報堂」バカざんまい(3)

 大手広告代理店にいる「大人数で来るバカ」「本当は自分では何もできない横流しバカ」を紹介した前回に続き、今回も中川淳一郎氏が広告業界の“バカざんまい”なエピソードを披露する。

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博報堂本社

【クライアントというバカ】

 代理店の業務に無駄が多く、とにかくサービスをする「社畜」だと書いてきましたが、その業務の大本となるクライアント企業はどうなのでしょうか。残念ながらここにもバカは案外多い。頭が悪いということではなく、社内の論理に引きずられ、世間が見えていないのです。とにかく社内の上層部の顔色を窺い、怒られないようにする。そのための下準備をするのが代理店ということ。

 とある外資系メーカーを担当した時のことです。質問をすると彼らは互いに顔を見合わせ、誰かが返事をするのを待ちます。そして最終的な言葉が「USに聞かなくちゃ」。つまり、ワールドワイドな企業の日本本社は、その企業からすればあくまでも「日本営業所」、あるいは植民地みたいな扱いで、何があろうとも本国の意向を聞かなくては先に進まないのです。もはや自分の頭では考えられず、本国の逆鱗に触れないことばかり考えている。締め切りは決まっているのに時差もあれば英訳もしなくてはいけないということで、下請けたる代理店の作業量は増える一方です。

 こうしたクライアント内に浸潤する「怒られたくない」病理で私が最も印象に残っているのは、とある世界的企業「X社」の記者発表会です。世界の同業者がやってきて、環境問題に対する取り組みをプレゼンするイベントの、同社は幹事企業。そんな晴れ舞台で同社役員が「パワーポイント」でプレゼンをしたのですが、スライドが先に進まない。15秒ほど悪戦苦闘したところでイベント会社のスタッフが助け舟を出し、スライドが先に進んだという事態で、大問題となりました。

 イベント終了後、X社の現場責任者のP課長が博報堂のQ営業部長を呼びます。Q氏はペコペコと頭を下げる。P氏は仏頂面でQ氏に何やらクレームをつけている。このやり取りで言われたことは、15秒間スライドが動かなかったことがX社の社内で大問題になるかもしれない、ということでした。この日は、同社の会長も来るほどの大イベントだったので、いわば世界のVIPの前で会長に恥をかかせた、というわけです。

 イベントスタッフによると、スライドが動かなかった理由は「スライドを進めるには『Enter』か『スペース』を押さないといけないのに関係のないキーを押していた」というものです。しかし、我々はX社に対し「経緯報告書」と「謝罪文」の提出を求められました。この際の謝罪のキモは「PCのメンテナンス不足」と「役員への事前説明不足」にあり、X社は博報堂を悪者にすることで、社内の誰にも過失がないということにしたのでした。これぞザ・社畜であり、サービス業たるゆえんです。

中川淳一郎氏

■“枕営業”も…

 一方、代理店は自身がクライアントであるという側面もあります。映像制作やイベントなどは下請けに発注するほか、タレントの起用にあたっても芸能事務所に依頼をするからです。

 ある日、とある男性社員が私に嬉しそうに寄ってきて声を潜めてこう言いました。

「絶対に誰にも言うなよ」

「はい、なんでしょうか?」

「ウヒヒ、オレさぁ、〇〇〇〇とヤッちゃったよ」

 ここで言う〇〇〇〇は当時人気絶頂のグラビアタレント。いかに彼女との一夜が素晴らしかったかを力説し、彼は「いいか、絶対に誰にも言うなよ」と言うのでした。なんでこういうことが起こるのか。広告のタレントを決めるにあたっては、よっぽどドンピシャのイメージの人がいて彼や彼女を一本釣りする場合のほかは、似たようなタイプを3人程度候補者として提案するものです。

 この契約を取れば年間2000万円だ!みたいな話ですから、芸能事務所も必死。クライアントに対して自分のところの所属タレントを強く推すために、「もしよろしければ今晩〇〇〇〇と飲みに行きませんか?」と言い、いつしか2人きりに……。さぁ、あとは大人のハッスルターイム。あのね、わかってるわよね。アタシのことを一番強く推してくださいね。はいはい、キミがナンバー1ですよ! なんてエッチな話になるのでした。

 こんなトップシークレットを私に教えてくれたわけですが、なんてこたぁない。ほうぼうで「ここだけの話だぞ」と自慢をしまくっており、多くの人がこのことを知っていたのでした。

電通本社

【流行りモノに踊らされるバカ】

 最後は、「流行りモノにはとりあえず手を出しておかなくちゃいけないという宿命」と、そこから生まれる珍展開について。何か新しいテクノロジーができたり、そのツールを使って他社が話題となったら「ウチもやりたいんだけど……」と代理店にとりあえず丸投げします。営業もよくわからないものだから、「デジタルナントカカントカ局」の人を呼び、最新ツール事情を聞くとともに、運用ケーススタディを集めたりする。2006年以降、私は企業がデジタル戦略で右往左往する様を見てきました。ザッと挙げてみても、これだけあります。

 ブロガー体験イベント、スタッフブログ、Ustream、セカンドライフ(仮想空間)、ブログパーツ、ツイッター、mixiアプリ、オウンドメディア(自社で作るメディア)、フェイスブック、LINEスタンプ、バイラル(拡散する)動画――いずれも一部の成功(に見える)ケーススタディに感化され、必要かどうかも判断することなくとにかく試してしまい、失敗する。「トライすることが重要だ」なんて開き直っている中、次のツールが出てまた手を出してやけどする。

 そして今、自治体で特にその兆候が見られるのですが、何かと動画を作りたがる。

「恋するフォーチュンクッキー」に合わせて職員が踊る動画で話題となった佐賀県に、石田三成を起用したバカっぽい動画がブームとなった滋賀県。本当は地元言葉を喋っているのに、フランス人が登場しているがゆえにフランス語にしか聞こえないという宮崎県小林市のPR動画。

 その成功を見て「ウチも話題となる動画を作りたい!」と言い出します。動画は内容をどれだけ斬新かつ面白くするかがキモ。しかし、お役所としてはそこまで冒険はできず、無難な動画に留まった結果、投下したカネの割にあまり再生回数は増えない。かくして「代理店は詐欺師だ! もう頼みたくない!」と代理店アレルギーになってしまう場合もあるのでした。

 電通の「22時に全館消灯」は抜本的解決にはならない。その後居酒屋で会議をしたり、自宅に仕事を持ち帰ったり、子会社の会議室を使うなど、さらに手間が増えてしまうでしょう。代理店の宿痾を解決するには「75点ぐらい取ったら、まぁOKとする」と低い意識を持つ、これ以外にありません。

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 私が見てきた「電通と博報堂」バカざんまい(1)はこちら

 私が見てきた「電通と博報堂」バカざんまい(2)はこちら

特別読物「この連載はミスリードです【拡大版】 私が見てきた『電通と博報堂』バカざんまい――中川淳一郎(ネットニュース編集者)」より

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者。一橋大学卒業後、博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年退社。ライター等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』等。「サッポロ黒ラベル」党。