老後資金1300万円を“Rコイン”につぎ込んで… こうして「あなた」はハメられる! 中高年詐欺の最新手口(1)

ライフ週刊新潮 2016年7月7日号掲載

被害総額は1300万円。その手口とは……

 先頃、特殊詐欺の被害額として過去最高の5億7000万円を騙し取られた事件が報じられた。「そんな大金、ハナから持ってないから安心」なんて自嘲することなかれ。日々刻々と進化する詐欺─―ノンフィクションライターの井上理津子氏がその最新手口に迫る。

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 近頃の詐欺の手口のキーワードは「グループ犯」「対面」「スピーディー」だ。ターゲットにされるのは、心が弱った老人ばかりではない。

 まず、実際に被害にあった方の話に耳を傾けよう。

「昨年の12月半ば、O産業のKという人から『もうすぐあなたの家に、R社から水色の封筒が届きます。ビットコインのように近い将来値上がりする仮想通貨、Rコインを購入できる権利をあなたが得たからです。弊社は2・2倍で転売しますので、封筒の中をご覧になって、よく検討してご連絡ください』と電話がかかってきたのが始まりでした」

 こう語り始めてくれたのは、埼玉県さいたま市に住む明石良夫さん(85)=仮名=だ。

 元大手メーカーの技術職。海外勤務も長く、定年後は管理者として迎えられた第2の職場に70歳まで勤めた。その後、去年母が亡くなるまで精力的に介護。傍ら、今も現役時代の仲間とゴルフを楽しむ。独身だが“娘代わり”の姪との交流頻度は高く、高齢の一人暮らしといえども「孤独な老人」とはいえない。

 ところが、わずか1カ月半で、老後資金の全てを奪い取られた。

■「スケベ根性が出ちゃったんですね」

「O産業のK」からの電話の後、立て続けに2業者からも同じ内容の電話がかかり、「Rコインは必ず値上がりする。2・2倍で転売できる」と刷り込まれた。そして12月下旬、東京・日本橋のR社から水色の封筒が届き、そこにはRコインの有益性を伝える立派なパンフレットが入っていた。

「先に電話で何人もから聞いていたとおりです。なぜ私が選ばれたのかとR社に電話して聞くと『お近くに支店を開設するので、今後地域的な協力を得ることを願って、ご挨拶のため』と言います。ちゃんとした会社だなと思ったんです」

 明石さんは「じゃあ、おつきあいで1万コイン、30万円だけ買いましょうか」と応じた。すぐさま自宅にやって来たR社の社員は「実直な50代サラリーマン」風の男。30万円を手渡した。

 年が明けると、再び「O産業のK」から「10万コインまとめてなら、2・6倍で転売します」と何度も電話がかかってきた。

 そこで、明石さんは状況を確かめようと、現金を取りに来たR社の社員に電話する。「Rはニューヨーク株式市場に上場した。500万コイン以上を持っていれば、株式にも交換できる」と煽られる。

「お小遣い稼ぎができそうだと、スケベ根性が出ちゃったんですね」

 9万コインを追加注文し、270万円を再び手渡した。

■賭け事とも投資とも無縁

「合計10万コインになったから、早く転売先を探してよ」

「はい。今、探している最中です」

「O産業のK」とそんな電話のやりとりをする中、別の業者が「30万コインまとめてなら、すぐに4・5倍で転売できる」と電話を寄越したので、明石さんはさらに20万コインを注文。「R社は『円換算を少しおまけする』と言ってくれ」、1月15日に500万円を払った。

 すでに3度現金を取りに来て顔見知りになったR社社員が、その後「Rコインは日本で5億円分しか扱えないので、そろそろ在庫がなくなります」「ベンツのダイムラー社が500万コインまとめてなら買う。50万コインずつ10人から買いたいと言ってきています」と電話してきた。

「その時点で、O産業のK、電話してきた他の業者、R社がグルだと、私はまだ気づいていませんでした。このままなら800万円がふいになりかねない、あと500万円追加して取り返そうと思った。犯人たちの思うツボだったんです」

 明石さんは下旬にさらに500万円を渡してしまう。

「ところが、待てども待てども転売は実現せず、R社の社員は『1500万コイン以上でなければ転売は無理』とけしかけてきた。おかしい、騙されたと、やっと気づきました」

 明石さんは、これまで賭け事とも投資とも無縁だった。ゴルフ仲間とは、金の話をしないのが暗黙のルール。毎日電話をくれる姪に打ち明けたのは、被害額が800万円に及んでから。姪の夫がR社の所在を確認に行き「怪しい」と伝えてくれたが、「今さら引き返せない」と姪夫婦に内緒で次の500万円を渡してしまったのだ。

 被害総額は1300万円に及ぶ。「いずれそれなりの介護付き有料老人ホームに入る時の頭金にしようと残していたお金でした。すっからかんになってしまった。老人ホームに入るには、この家を売るしかないでしょう。遠からぬ将来、私は片道切符で老人ホームに行くことになる……」と、明石さんは肩を落とした。

「特別読物 こうして『あなた』はハメられる! 中高年がターゲット! 詐欺の最新手口集――井上理津子(ノンフィクションライター)」より

井上理津子(いのうえ・りつこ)
1955年奈良市生まれ。京都女子大学短期大学部卒。タウン誌記者を経てフリーに。人物ルポや旅、酒場をテーマに執筆。著書に『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『親を送る』『旅情酒場をゆく』などがある。