孫正義「オモニが二つの足で立てと言っている」 10兆円超えの負債、権力者の孤独…

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 ソフトバンクグループの孫正義社長(58)の後継として指名されていたニケシュ・アローラ副社長(48)が、再任されるはずの株主総会の前夜、突如“クビ”に。互いに円満退社を強調したが、「経済界」編集局長の関慎夫氏が「孫さんがロマンティストなのに対してアローラはリアリスト」と指摘する2人の間には、深い溝があった。アローラ氏が孫氏に対し“あなたはウソつきだ!”と発言するなど、修羅場続きだったという。

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本社ビル26階で「オモニ」と熱唱した孫正義社長(58)

 ソフトバンク関係者によれば、アローラ氏の念頭に常に負債の整理があった一方、孫氏は、

「借金を返すために減資するなど、とんでもない。虎の子の1兆円が入ってきたら、事業拡張や電源開発など夢のために使う」

 と述べていたという。だが、孫氏にも、膨らむ借金への恐怖心があるのかもしれない。日本総合研究所会長で、孫氏が「恩師」と仰ぐ野田一夫氏が言う。

「去年の秋、孫くんに会ったとき、あまりに疲れて見えた。初めて会った20代のときの、少年のような顔を思いだすけど、すっかり疲れ果てていました。僕が昔、“忙”はりっしんべんに亡だから“心が亡びる”と話したのを、彼は覚えていると思う。僕が“疲れているんじゃないの?”と言うと、孫くんは“先生、有利子負債が10兆円を超えました”と言う。“すごいね”と答えましたが、そんなものを抱えて、普通の人なら気が狂いますよ」

 人知れぬ苦衷を支えるためなのだろうか、再び先の関係者が言うには、

「会議や商談で突然、“オモニが俺に言うんだ”とか“オモニが二つの足で立てと言っている”とか言うんです。オモニは韓国語で母という意味。他人からすると何だかわかりません」

 そんな孫氏の姿も、アローラ氏は見ていたという。

■権力者の孤独

 オモニと言えば、こんな証言をする人もいる。

「孫さんは韓国語で、“オモニ”という歌詞の曲を涙ぐみながら熱唱しました」

 場所は、汐留のソフトバンク本社が入ったビルの26階。事情通によれば、

「孫さんはそのフロアを個人で借り切って、会議をしたり、接待したり、そこだけで仕事が完結できるようになっている。昼食も上階のコンラッド東京から取り寄せ、夜になると接待用の部屋に、寿司職人やクラブホステスなどを呼び、客を接待するんです」

 孫氏が歌う“オモニ”の歌詞を聞いたのも、そうして饗された客の一人で、その人の話を続ける。

「その部屋は黒い木製の渡り廊下が張り巡らされ、水が流れて小川のせせらぎが再現され、滝もあれば、小川をまたぐ小さな橋まであった。京都から運んだといういくつもの巨石には苔が生え、虫も鳴いていました。廊下の先には書院造の純和風の部屋があって、そこで寿司やフレンチを食べたあと、カラオケの時間になり、生バンドの伴奏で孫さんが歌い出したのです」

 その空間は、豊臣秀吉が築いた絢爛な伏見城のようではないかと、この人は感じたという。孫氏もそこで権力者の孤独に、身を苛まれているのだろうか。

■後継者は人工知能?

 ソフトバンクグループのナンバー2である宮内謙副社長に、孫社長の「オモニ発言」について尋ねると、

「それはどうかな。“フォースの声を聞け”とは、しょっちゅう言っていますけどね。『スター・ウォーズ』が好きなので」

 続いて、アローラ氏が退任する理由についても、真相を聞いてみたが、

「ニケシュと対立したなんて話じゃなく、発表している通りです。孫さんが“まだ10年、15年やっていきたい”と思ったのが一番の原因だと思いますよ。ニケシュにすれば“早く継ぎたい”というのはあったでしょうけど、孫さんはふと我に返ったら“ちょっと待てよ”と思った。それが真相ですよ。ニケシュが孫さんのことを“ウソつき”と思ったのだとしたら、そんなことを言うとは僕は思わないけど、“後継者として来年くらいに継がせるという話じゃなかったのか”ということじゃないですか」

 ソフトバンクグループの広報室の回答も、宮内副社長とほぼ同じ見解だった。

 さて、先のソフトバンク関係者は、

「ニケシュは今年に入って、銀行関係者と会い、“融資から降りてもいいのか”と聞かれたらしい。孫さんは、ニケシュが銀行側と結託し、孫さんを棚上げするのを恐れていた可能性もある」

 と言うが、いずれにせよ孫氏は、アローラ氏をうっちゃって、誰を後継に据えるつもりなのだろうか。

「つなぎの経営者を間に挟んで、長女に継がせるんじゃないかと、社内の人は噂していますね」(同)

 その一方で、ソフトバンクのさる元幹部社員は、こんな見方をする。

「孫さんは2000年ごろ、“ソフトバンクはサーバーがひとつあればいい”と話していました。ルールを作り、それを回していく仕組みがあれば、勝手に企業は成長していく。その中心にサーバーないし人工知能が活用できる、と考えたのです。孫さんは自分の思考を体現できる人工知能の完成を待っているのではないか。それが自分の後継者だと考えていると思います」

 つまるところ、アローラ氏の敗北は、人工知能に負かされた世界トップ棋士のそれに近かった、ということだろうか。

「特集 ソフトバンク円満退社の裏側は修羅場 『孫社長』を『ウソつき!』と面罵した『アローラ』副社長」より

週刊新潮 2016年7月7日号掲載

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