ソフトバンク“円満退社”騒動の裏側 「やり手のアローラを見て不安になった」孫正義の恩師が語る

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 グーグルから三顧の礼で迎えられ、ソフトバンクの経営を引き継ぐはずだったニケシュ・アローラ副社長が、再任されるはずの株主総会の前夜に、突如“クビ”に。孫正義社長は「円満退社」を主張するが、その裏側には――。

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孫正義社長は「円満退社」を主張するが――

「実は、僕は60歳の誕生パーティで突然、“明日からニケシュが僕の後任で社長になる”と言ってバトンを渡そうと、本当に思っていたんです。だけど、60歳まであと1年になっちゃった。“ちょっと待てよ”と考えてみると、“俺は十分枯れたかな?”と、まだ欲が出てきまして」

 そう語ったのは、ソフトバンクグループの孫正義社長(58)。6月22日、有楽町の東京国際フォーラムで行われた同社の株主総会で、自ら「後継」に指名していたニケシュ・アローラ副社長(48)が、この日をもって退任する理由について説いたのである。

 それにしても、この“人事”そのものも、それが彼を役員に再任するはずの株主総会の前日の晩に発表されたというのも、異例中の異例であった。経済ジャーナリストの町田徹氏は、

「株主総会は企業の最高意思決定機関です。議案は何週間か前に取締役会で決議し、招集通知を届けて株主たちに事前に検討してもらうものです。それを当日に差し替えるなんて、普通はありえません」

 と呆れる。また、

「これは事件と言ってもいいくらいのことです。普通の会社なら大騒動になります。株主も怒っていることは怒っているでしょう」

 と語るのは、事業家で日本総合研究所会長の野田一夫氏。孫氏が「恩師」と仰ぐ人物である。

 しかし、「事件」にはならなかった。野田氏も、

「孫くんは普通の経営者ではない。実績に対してみんな一目置いているから、孫くんのやることは常識を外れていようとも、批判されないんです」

 と続けるが、事実、株主総会に出席した公認会計士の武田雄治氏は、

「私自身、生涯現役でやってほしいと思ったし、質疑応答の際も株主から“99歳までやってほしい”というコメントがありました」

 と語る。“クビ”になったアローラ氏も、不満を漏らすどころか「いつも通りの淡々とした表情で」(同)、孫社長のことを、

「トレンドを見出すすばらしい能力をお持ちで」

 と、持ち上げたうえで、

「この孫社長の決断について、私は非常に尊重し、また(今後も)十分にサポートさせていただきたいと思っています」

 このように、自身の「円満退社」を強調し、株主たちもそれを穏やかに受け入れたというのである。

■アローラを見て不安に?

 もっとも、事前に不可解なことはあった。今年1月、アメリカの投資家が匿名で、アローラ氏が大手投資ファンドの投資顧問を兼任していることなどを問題視する書簡を送りつけた。これについて、アローラ氏の“クビ”を発表する前日に、ソフトバンクグループは「問題なし」という調査結果を発表したのだ。実は、そこに問題があったのか。

 だが、企業法務に詳しい高橋弘泰弁護士は、

「利益相反の疑いがあるとしても、抽象的なものだと思う。これが退任の原因ではないと思いますね」

 すると、孫氏の説明を鵜呑みにするしかないのか。

「“急に社長を続けたくなった”という説明は、孫くんらしいね。彼のことをよく知らない人は鵜呑みにして、“すごいな”と思うでしょうが、人に言えないことがあったんだと、僕は思いますよ」

 先の野田氏は、こう感想を漏らして、続ける。

「そんな子供みたいな理由で、あれだけの経営者を辞めさせるなんて、あり得ませんよ。実際は、やり手のアローラを見て不安になったんだろうね。孫くんは、今まで自分がやってきたことをアローラもやってくれると思ったけれど、どうやら違う。一時は恋愛のようにアローラに惚れていたが、いざビジネスを任せると、自分ならしないようなことをする。“あれ、大丈夫かな?”と思って、株主総会ギリギリまで迷ったのでしょう。毎日一人で悩んで、日が経ったんだろうね。アローラになにか条件を提示して、おたがいが傷つかないように“社長を続けたくなった”という言いわけを用意したのではないですかね。僕は孫くんが30歳になる前から知っているので、騙されませんよ」

■二人の深い溝

 言われてみれば、株主総会における両者の発言の間にも、齟齬(そご)はみられた。先の武田氏も述懐する。

「アローラ氏はスピーチの中で“投資したものは回収しなければならない”“6週間で180億ドルを資金化したことを誇りに思う”と述べ、孫さんは“私は投資はうまいが、売却はうまくないと言われる”と言った。それを聞いて、財務体質改善と投資回収を急ぐアローラ氏と、投資資産を保有し、内部利益率世界一をめざしたい孫さんとの間に、意見の食い違いがあったのかな、と感じました」

 両者の考え方の違いについては、「経済界」編集局長の関慎夫氏も指摘する。

「投資でも孫さんがロマンティストなのに対して、アローラはリアリスト。売り時や買い時、メリットとデメリットをはっきりさせて考える。孫さんは成功確率が5割、いや4割でもゴーサインを出しますが、アローラは6割、7割成功するのでないと踏み出しません。要は、孫さんは無鉄砲で、ばくち打ちみたいなところがあるんです」

 2014年に、グーグルのナンバー4から迎えられ、翌年、副社長に就任したアローラ氏。初年度だけで165億円もの報酬を受け取ったことからも、いかに孫氏が“惚れて”いたかがわかるが、さるソフトバンク関係者に聞いても、二人の間には差異、というより深い溝があったという。

「ニケシュは“回収可能か”という言葉をよく使う。1億円投資したら、5年後には1・5億円戻ってくるものを求めるんです。しかし、孫さんは投資の回収に採算性を求める人ではない。まだ副社長になる前、孫さんから託され、ソフトバンクのインド投資を指揮したニケシュは、インフラ業などに手堅く投資したんですが、孫さんにはおもしろくない。そこで孫さんは銀行など外部関係者のいる席で“もっと壮大なスケールの投資をお願いしていたはずだ”と言いだし、周囲をしらけさせました」

「特集 ソフトバンク円満退社の裏側は修羅場 『孫社長』を『ウソつき!』と面罵した『アローラ』副社長」より

週刊新潮 2016年7月7日号掲載

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