ヤマザキマリの息子が語る日本――「素人」がデビューできる唯一の国

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 21歳のヤマザキデルスさんは、漫画家・ヤマザキマリさんの長男だ。イタリア人の父をもち、フィレンツェで生まれてすぐ北海道へ移住、その後シリア、ポルトガル、アメリカと移り住み、現在はハワイ大学からの交換留学生として京都大学に通っている。そんなデルスさんから見た日本の姿とは。現在発売中の「新潮45」7月号に、「『素人』がデビューできる唯一の国」を寄せている。

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 これまで日本と外国を行き来しながら暮らしてきたデルスさんは、〈それゆえ、日本がどういう点でほかの国と違うのか、よく分かります〉〈それが僕の唯一の取柄〉であるという。本誌では、日本の特徴として3点を挙げているが、良くも悪くも「合理性に欠けている」のは、ひとつのポイントであるようだ。※〈〉は本文より引用、以下同

 例えば仕事選び。日本の場合、大学の経済学部を卒業して出版社に就職、といったケースは珍しくないが、これをデルスさんの父やハワイ大学の先生は〈なぜ日本人は、自分が大学で専攻した分野や、あるいは趣味として好きなこととも、まったく関係のない領域の職業を選ぶのだろう〉と不思議に思うとか。

 ただし、デルスさん自身は、日本の“合理性の欠如”を否定的に見ているわけではない。その例として挙げるのは、大阪大学の石黒浩教授たちが開発している“人間型”ロボットだ。ロボットとしての機能を考えるのなら人間型である必要は少なく、これは欧米人にはなかなか理解できない発想だというが、

〈日本には、頭の中が想像力旺盛な子供のまま成長してしまった大人がたくさんいる印象があります。いまだに、70年の大阪万博を見てはしゃぐような感覚を保ち続けている中年男性と知り合ったこともあります。しかし、そういう人の発想や想像力からでしか生み出せない何かがあり、それを生かしてくれる環境があるのは素晴らしいと思うのです〉

■日本のサブカル文化

 さらに、日本のお家芸であるアニメや漫画などについても、こう分析する。

〈外の人間からしてみれば、ゆるキャラなども含めて、日本はまったく意味のないもので溢れている、と感じる人も多いでしょう。マンガを読んだとしても頭が良くなるわけでもなければ、仕事の効率も上がらない(略)でも、あまりに合理性を重視しすぎるアメリカ人は、もう少し日本人のマンガのようなサブカルチャーをリスペクトする精神からも、学ぶべき点はあると思います〉

 本誌掲載記事のタイトル「『素人』がデビューできる唯一の国」とは、新人賞やコミケなどの“場”が多く用意され、素人でも世に出るチャンスがある日本の環境を指してのことだ。かくいうデルスさんも、交換留学で京都大学に通いながら、友人と組んで小説を書いている。

〈ハワイ大学にいた頃とは環境がまったくちがい、完成して本を出すことも夢物語ではないので、つい熱中してしまいます。アメリカのメディア環境にいれば、勝手に書いた小説を完成させても発表する場がなく、まるで意味がありませんから、やる気も起こりません〉

“合理的”な進路設計では〈選択肢はエンジニアとなります〉というデルスさんだが、あのヤマザキマリさんのご子息、ひょっとしてそちらの才能も……?

「新潮45」では、日本ではお馴染み「呑み会」の効用などについても触れ、デルスさん目線の日本の良い面・悪い面が率直に綴られている。

デイリー新潮編集部

新潮45 2016年7月号掲載

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