白鵬×大島親方(元旭天鵬)対談 「モンゴル人だから、強くなるわけではない」

社会新潮45 2016年6月23日掲載

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 2015年7月に現役を引退した「旭天鵬」こと大島親方の引退相撲が、5月29日に東京・両国国技館で開催された。これに先立ち行われた横綱・白鵬との対談が、「新潮45」6月号に掲載されている。ノンフィクション・ライターの武田葉月氏の構成による『日本で相撲に出会えてよかった』から、その一部をご紹介しよう。

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 今回の対談は、横綱の「(旭)天鵬関、じゃなくて大島親方、あらためまして23年間の土俵生活、お疲れさまでした」との言葉から始まった。モンゴル人力士一期生として大島親方が来日したのは平成4年、横綱が日本に来たのは平成12年のことである。「その時からずっと、『天鵬関』って呼ばせてもらっているので、まだそのクセが抜けきれなくて……(笑)」と明かすように、2人の間には“同胞”以上の親交がある。

 かねてより“幕内から落ちたら引退”を決めていた旭天鵬の十両落ちが決まったのは、2015年7月の名古屋場所。次の秋場所の初日で、41歳の誕生日を迎えるという時だった。

【旭天鵬】 名古屋場所では横綱が35回目の優勝をして、千秋楽、僕のことを優勝パレードのオープンカーに乗せてくれた。「天鵬関、もし私が優勝したら、パレードの旗手をしてください」と言ってくれていたんだよね。たしかに、それまでも旗手を務めたことは何度かあったけど、今回はまた話が別じゃない? 横綱が千秋楽の相撲で勝って優勝を決めて、「これ以上ない」という引退の花道を飾ってくれたのは、本当にうれしかった。でも、それ以来3場所、今年の春場所まで横綱が優勝から遠ざかってしまったので、ちょっと責任を感じていたんだよね。あの時、力を出し切っちゃったんじゃないかな? って思って(笑)。

【白鵬】 ご心配をおかけしました……(笑)。私も今年の3月で31歳になってわかったことなんですが、30歳を越えると、力士という職業は体力的に厳しいものがありますよね? 天鵬関、私たちの最初の取組のことって覚えてますか? その時私は、前頭3枚目で19歳。天鵬関は30歳だったんですが、ついに本場所の土俵で天鵬関と相撲を取れるって、ワクワクしていたんです。

【旭天鵬】 もちろん覚えてるよ~。あれは平成16年秋場所の千秋楽で、僕は小結だったの。そのちょっと前に僕は、三役でまあまあの成績を残したこともあって、「大関に近い男」って言われたこともあった頃だったな。だけど横綱、そんなこと言っているわりに、あの時、厳しく攻め立てられて、初顔合わせは僕が負けたんだよ。たしか、次の年になって勝てたんだけど、結局、それから引退するまで、1勝しかしていない(通算2勝28敗)。横綱は短期間で、どんどん強くなっていったからね。歯が立たなくなってしまった。 

 大島親方は友綱部屋、横綱は宮城野部屋と、同じ伊勢ヶ濱一門という繋がりもある。横綱が来日した年の年末の、一門の連合稽古後のこんな思い出話にも花を咲かせた。

【白鵬】まだ、正式な力士でもない私を、渋谷にあるモンゴル大使館の「ニューイヤーパーティ」に連れていってくださったんです。その帰り道、なぜかわからないけれど、天鵬関と同じ車に乗せていただいて、六本木に行きました。

【旭天鵬】 なつかしいな~。そう、「ハッピーニューイヤー!」ということで、大使館に行った後、六本木の交差点に向かったのね。それで、なにをしたかというと、六本木の交差点で車を降りて、シャンパンをパーンって開けた。いったい、なにをやってたんだろうねぇ、あの頃は。意味不明な行動だったな(笑)。でも、シュウ(旭鷲山)も(旭)天山も、朝青龍もいて、みんなで一緒に新年を祝ったんだよね。

【白鵬】 そうでしたね。まだ、私はガキでしたけど、キラキラしていて都会的な六本木を見て、「日本ってすごいなぁ」と感激した瞬間でした。

 話題は、相撲界の「1部屋につき、1外国人」という外国人枠についても。この規定により、外国人の入門希望者の門戸が狭くなってきていることを憂う2人は、協会の伝統を踏まえた上で、こんな提案をする。

【白鵬】 そろそろ新しい制度に変えることを考えてみてもいいんじゃないかなぁ? 入門希望者は、どんな国の人でも、何人でも受け入れる。ただし、入門の前にちゃんと日本語や日本文化の勉強をさせるんです。(略)たとえば単位取得制にして、入門が許可されてからも、学校に行かせてきちんと勉強を続けるという方法もいいかもしれません。こうして、日本のことを理解したうえで相撲を取ることは大切なことでしょうね。もっと言えば、モンゴル人だから、外国人だから、入門した者全員が強くなるわけではないし、努力した人、やる気がある人が出世できる世界が相撲界だと思っていますから……。

【旭天鵬】 本当にそうだと思う。何度も言うようだけど、どんなに体が大きくても、どんなに強い推薦やコネがあったとしても、自分でやる気を出さない限り、上には行けないんです。だから、僕たちが入門した当時のように、あえて規制などは作らなくてもいいんじゃないかと思いますね。

【白鵬】 そんな中から、40歳の幕内力士・旭天鵬関も生まれてきたんですからね。

 今回の対談では、力士としての互いの特性や、横綱が開催する子供たちの相撲大会「白鵬杯」への思い、「日本人女性との結婚」という2人の共通点など、話題は縦横にひろがりをみせた。相撲ファンなら必読の内容だ。