パナマ文書騒動でも止まらない富の流出 “いたちごっこは続く”

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 近年、世界各国が、自国からの富の流出を恐れて、タックスヘイブンやプライベートバンクへの規制を強化している。

 ジャーナリストの山田順氏が言う。

「例えば、アメリカは、2014年からFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)を施行し、IRS(歳入庁)が海外にある銀行に米国人の口座の開帳を求めることが出来るようにしたのです。スイスにあるプライベートバンクは、最初、その要請を固辞していたのですが、ついには求めに応じざるを得なくなった。スイスの銀行ですら危ない、と感じた人々は、次々にプライベートバンクからお金を引き揚げて、タックスヘイブンへと資金を移していきました」

 今回の「パナマ文書」騒動は、“名無し”を意味する「ジョン・ドウ」から「南ドイツ新聞」にデータが提供されたことが発端だった。

 プライベートバンクへの追及強化も、同様の「情報提供」がキッカケとなった。

「国税記者の事件簿」著者で、ジャーナリストの田中周紀氏が言う。

「08年、リヒテンシュタイン公室が所有する『LGTリヒテンシュタイン銀行』の元行員が、約1400人分の顧客データをDVD3枚に入れて持ち出し、ドイツ連邦情報局に、7億円近い金額で売ったという事件がありました。また、同年、スイスのHSBCジュネーブ支店の行員が2万4000人分の顧客情報を持ち出し、各国の当局に無償で提供しています」

 それゆえ、今回の「パナマ文書」流出も、

「タックスヘイブンの壁になっている秘匿性を撤去させるために、国際的圧力をかける追い風になると思います」(国際ジャーナリストの木村正人氏)

 世界の大多数の人々は、そこまでして「逃れる」ほどの税など支払っていない。その立場からしてみれば、結果として、金持ちが真っ当に税を支払うようになることは、歓迎すべきことではある。

■水が高い所から流れるように……

 ところが、だ。

「もちろん、犯罪で使う金のロンダリングなどは、絶対に許してはいけないことですが……」

 と前置きして言うのは、前出の山田氏である。

「それとは別に、今後も、タックスヘイブンに資産が動いていく、という流れは止めることは出来ないと思います。いくら規制しても新しい逃げ道が作られる“いたちごっこ”が続いていく。タックスヘイブンは、それを利用する人たちの自国の税制を映す合わせ鏡。水が高い所から低い所へと流れていくように、税の高い国から低い国へ資産が流れていくのは、良いとか悪いとかは別として、仕方のないことなのです。とりわけ、日本は世界でも悪しき税制を持つ国のひとつ。既に、日本企業は、ケイマン諸島やバミューダ諸島などに、アメリカに次ぐ数のSPC(特別目的会社)を作っていると言われていますが、その流れは今後も止めようがないでしょう」

 すなわち、日本から海外へ富が流れ続けていく、という傾向には歯止めはかからないというワケなのだ。

 この5月、「パナマ文書」について、最終的な調査結果が公表される。世界中の要人が「ジョン・ドウ」の影に怯える日々は続くが――。その水面下では、世界は意外と変わらず、これまで通りに流れ続けていくということかもしれないのである。

「特集 アイスランド首相は辞任! イギリス首相は支持率急落!『習近平』も『ジャッキー・チェン』も! 日本人400人という『パナマ文書』読解ガイド」より

週刊新潮 2016年4月21日号掲載

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