福島第一原発を視察した「田原総一朗」(3)“事故前にこれだけ細やかにやっていれば、こんなことにならなかった”

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 ジャーナリスト田原総一朗氏(81)が、初めて福島第一原発を訪れ、“フクシマ”を語る。同席するのは澤田哲生・東京工業大学助教授(原子核工学)、増田尚宏氏(東京電力・福島第一廃炉カンパニープレジデント)。そして前回、東京電力副社長で福島復興本社代表の石崎芳行氏も加わった。いつしか話題は、“司令塔なき”日本の原子力総合政策に。「形としては原子力委員会がありますが」という澤田氏には、田原氏は「担当大臣は島尻安伊子だ。あれが委員会を仕切っているんですよ」という意見。座談会が行われたのは3月1日、原発事故から丸5年が経とうという時である。

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前線基地・Jヴィレッジにて会談。左から石崎芳行氏、増田尚宏氏、田原総一朗氏、澤田哲生氏

【澤田】 政治がだらしないとの話ですが、帰還の問題でも、地域住民の考え方や期待と、自治体の首長や政府の考えが噛み合っていない。

【田原】 丸川珠代担当大臣が余計なことを言って。

【澤田】 言っていることは正しいんですけどね。

【田原】 だったら撤回しなきゃいい。誰かから聞いた話を、生半可な知識で言ってしまった。で、非難されたら全面撤回してしまった。

【澤田】 内閣で撤回を迫られたらしい。本当に困ったことです。

【田原】 帰還の問題で難しいのは、人が住んでいない地域に帰ってきて、どうやって生きるのか、仕事をどうするのかということ。それと生活インフラですね。


【澤田】 今日も福島第一の中にコンビニができましたが、外側にはできていない。

【田原】 人が帰ってきて生活できるようにする、ということに、東京電力は相当責任を負っていると思う。

【石崎】 復興に携わる社員を県内に1800人常駐させていて、うち50人ほどJヴィレッジにいますが、それを富岡町に移して100人くらいの事務所を作ります。すると食べ物を売る店ができ、飲食店もできるかもしれない。住民はまだ帰ってこないけれど、我々が先陣を切ろうと思います。また給食センターを大熊町に作りまして、最初は発電所から9キロしか離れていないところで食べ物を作れるのか、安心して働けるわけないだろう、と思われましたが、CGを作ってPRしたら、100人の募集に200人くらいの応募があったんです。

取材当日にオープンしたローソン

【田原】 大事なのは、東京電力が新しい地域づくりをしなきゃいけないということ。それは復活ではないと思う。新しい、未来の福島を作るんだ、ということですね。

【澤田】 大熊町って、ほぼ全域が帰還困難区域ですけど、給食センターが作れるんですね、その気になれば。

【石崎】 形を見せることが大事だと思うんですよ。

バスの中から福島第一原発の構内を眺める田原氏

■「事故前にこれだけ細やかにやっていれば」

【田原】 東京電力は福島県とか自治体とは協力し合っているわけですね。

【石崎】 それは密接に、各町単位にグループを作って、頻繁に接触しています。

【田原】 皮肉を言えば、事故前にこれだけ細やかにやっていれば、こんなことにならなかった。

【澤田】 津波対策も、大震災が起こる前にどうにかできたのでは。

【田原】 それは東電の大きな責任だと思う。2008年、1100年前の貞観地震で、福島の原発のところに15メートルの津波が来た、と指摘されていた。ただ、対策にお金がかかるから、そのうちやろう、と言っている間に津波が来ちゃった。それからもう一つ、事故当時の原子力委員長の近藤駿介氏が面白いことを言ったね。日本では99・9%大丈夫だ、と言っても通用しない。絶対安全と言わないと地元も受け入れてくれない。仕方なく、東電は“絶対安全”と言ってしまったと。

【澤田】 給食センターは、住民が町に帰るひな形としての意義があると思いますが、ほかにも似たような事業はなさっていますか。

【石崎】 大熊町が3000戸の復興公営住宅棟を計画するコンパクトタウンの近傍に、給食センターを設置し、さらにその周りに社宅を750戸建て、給食センターや我々社員が大熊町のコンパクトタウンの核となるように、先に入っていきます。

【田原】 いいですね。

【石崎】 悩みどころは、東電がこうして先んじて入っていくとき、各町が「俺んとこ来い」と引っ張り合いになった。すると、どこに作るかという全体調整を誰がするかが問題なんです。

【田原】 それは県がやるべきです。もう国に期待するのはやめたほうがいい。東電と県ががんばり、国を巻き込んでいくんですよ。だいたい日本はね、昔から陸軍で言うと、下士官は世界一で、将校はまあまあ、ゼネラルは世界最悪だという。今もそうと言えます。

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(4)へつづく

「特集 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 特別篇 福島第一原発を視察した『田原総一朗』」より

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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