なぜ借金大国「日本の円」が安全資産とされているのか?

ビジネス 企業・業界 2016年02月29日

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 バブル期の“土地”や、3・11以前の“原発”はもとより、いかなる安全神話にも絶対はありえない。それは“円”も同じであろう。だが、日本の財政赤字が1000兆円を超えたいまも、大規模な金融危機が叫ばれるたびに円買いは加速する。借金大国・日本の通貨が“安全資産”の座を保ち続けているのは何故なのか。

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 円の急騰ぶりは、もはや看過できない水準に達しつつある。日銀がマイナス金利を導入した直後こそ、1ドル=121円をつけた円相場だが、今月11日のロンドン市場では一時110円台を記録。わずか10日余りで、10円を超える円高に見舞われたのである。

 そもそも、FRBが利上げを実施して日銀がマイナス金利に舵を切れば、ドルと円の金利差は広がり、“円安・ドル高”が進むと考えられてきた。ところが、

「実際に起きたのは真逆の事態でした。日米の金利差はむしろ縮小して、円高に振れてしまったのです」

 とは、経済評論家で参院議員の藤巻健史氏。

「日銀がマイナス金利の導入に踏み切ると、日本では収益悪化が懸念される金融株が値下がりしました。また、折悪しく、ドイツ銀行の巨額赤字が発覚。欧米でも同様の動きが生じて世界的な金融不安を招いた」

 FRBのイエレン議長も“年内4回の利上げ”から一転して、“マイナス金利も検討中”と示唆する始末。 

 その結果、“噂で買って事実で売れ”の格言通り、利上げ期待でドル買いを進めた投資家は、“円=安全資産”へと回帰したのである。

 だが、そもそも、円が安全資産という大前提に、根拠はあるのだろうか。

■“世界最大の債権国”

 ファイナンシャル・プランナーの深野康彦氏による解説はこうだ。

「まず、中国に次いで世界2位の1兆2500億ドルに上る潤沢な外貨準備高が挙げられます。つまり、大幅な円安に振れてもドルを売って円を買い支える余力がある、と。これが通貨の信用を担保している。また、2014年末時点の対外純資産が367兆円と、24年間連続で世界一を誇ることも大きな要素です」

 対外純資産は国や企業、個人が海外に持つ資産から負債を除いたもので、日本が“世界最大の債権国”であることを示す。

 同時に、1600兆円に上る巨額の個人金融資産が、銀行預金を通じて間接的に国の借金を支えていることも円の信頼感に繋がっているという。

 しかし、先の小黒一正法政大教授は、

「赤字国債は、早ければ東京五輪の5年後、2025年には個人金融資産を上回ってしまう。このままでは国債が暴落し、円の信用不安に陥りかねません」

 他方、“有事”に円が買われるのには別の理由もあるという。

 シグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミストによれば、

「日本の超低金利に目をつけた内外の機関投資家は、日本で調達した円資金を米ドルなどに替えて、金利差と為替差益で稼いできた。これを円キャリートレードと呼びます。ただ、アメリカの利上げ観測が遠のき、円高に振れそうになると彼らは一気に手仕舞いに向かった。その際、外貨を円に替えて日本の金融機関に返済するため、結果的に円高が加速したのです。決して、円が安全資産だから買われたのではありません」

 安全神話は崩壊寸前で、いつ“危険資産”と化してもおかしくないのだ。

「特集 『日本経済は崖っぷちか?』の客観的検証」より

週刊新潮 2016年2月25日号掲載