相撲協会「八角理事長」の怪しい就任過程 強引な表決に貴乃花親方も激怒

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 1月24日、大相撲初場所千秋楽。緊張した面持ちで大関琴奨菊(31)に賜杯を渡した日本相撲協会の八角理事長(52)の胸中には、如何なる感情が渦巻いていたのか。理事長として迎えた初めての本場所で、日本出身の力士が10年ぶりに優勝を果たした。気分が悪かろうはずはないが、それでも八角理事長が表情を緩めなかったのは、自らの権力基盤がいまだ脆弱であるという不安につきまとわれているからかもしれない。

日本相撲協会の八角理事長(52)

 実際に目下、八角理事長の足元からは、こんな不穏な声が聞こえてくるのだ。

「果たして現在、八角親方が理事長の椅子に座っていることに“正当性”はあるのか。理事長に相応しいかどうか、ではない。選ばれ方が正当だったかどうかを疑う声が協会内にあるのです」(相撲協会関係者)

■“退席してほしい”

昨年11月に急逝した北の湖前理事長

 北の湖前理事長が急逝したのは昨年11月の九州場所中。以降、理事長代行を務めてきた八角親方が正式に理事長に就任したのは昨年12月18日である。

「あの日行われた理事会は、非常に問題が多かった。通常、理事会の議題は事前に決めて、理事らに知らせます。あの日の場合、事前に決まっていたのは、『事業計画』や『決算』、そして『その他』という議題があったのですが、これがクセモノだったのです」

 事情を知る親方の1人はそう明かす。

「理事会が始まってから、出席者の1人が“『その他』って何ですか?”と八角親方に聞いたところ、“理事長を決めることです”と言う。そんな重要議案は事前に知らせておくべきですが、彼はそれ以外にも出席者を驚かせることを口にした。何と、“理事長を決める際には、外部理事の方は退席して欲しい”と言い出したのです」

 現在、相撲協会の外部理事を務めているのは、元NHK会長の海老沢勝二氏、靖国神社宮司の徳川康久氏、元名古屋高検検事長の宗像紀夫氏の3人で、

「理事会前の段階では、彼ら3人はどちらかといえば“急いで理事長を決める必要はない。今選んでも、結局、任期切れの3月末にまた選び直すのだから、代行のままで良い”との考えだとされていた。つまり、その日、理事長に就任してしまいたい八角親方にとっては邪魔な存在で、だから“退席して欲しい”などと言い出したのでしょう」(同)

 だが無論、そんな意見が簡単に通るはずはなく、理事の貴乃花親方(43)らが強硬に反対。結果、八角親方は自らの提案を撤回せざるを得なくなったのだが、問題はここから。外部理事を含む11人により表決を行うことになった議題は、

〈正式に理事長を選ぶか、このまま代行でいくか〉

 というもので、〈正式に理事長を選ぶ〉が6票、〈このまま代行でいく〉が5票との結果となった。前者に投票したのは、尾車、鏡山、二所ノ関、友綱、出来山の各親方と、外部理事の海老沢氏。後者は、貴乃花、千賀ノ浦、伊勢ヶ濱の各親方と、外部理事の徳川、宗像両氏である。議長の八角親方は投票していない。

■「表決をとっていない」

日本相撲協会

「票数を再確認して表決が終了した後、誰を理事長にするか、という話になった。そこで尾車親方が、“今、代行を務めている八角さんにしましょう”と言い出し、周囲が口を出す間もなく、“いいですか、いいですね”という具合に先に進めてしまった」(先の親方)

 こうして理事長に就任した八角親方が、協会ナンバー2である事業部長に任命したのが尾車親方だったことから、

「理事会前から、八角親方と尾車親方の2人は組んで打ち合わせをしていたのだろう、と皆が疑っています。最大の問題は、“誰を理事長にするか”という議題について表決を行っていないことです。そもそも、理事長就任希望者をきちんと募っていれば、貴乃花親方も手を挙げていたはず。その時間を与えないよう、尾車親方が強引に“八角さんで”と進めてしまったのは、大問題ですよ」(同)

 この点、外部理事の海老沢氏に聞くと、

「八角さんでいいかどうかという表決はちゃんととっていますよ。それで6対5になったんだよ。理事長を置くかどうかで表決をとったのが6対5なら、それでどうして八角さんが理事長になるの?」

 そう述べるのだが、事情を知る親方(前出)は、

「それは海老沢さんの完全な勘違いです。表決を行ったのは、理事長を正式に置くかどうかについてで、八角親方でいいかどうかについてではない。だからこそ、理事長としての正当性を疑問視する声が上がっているのです」

 と断言した上で、次のように警告するのだ。

「八角親方でいいかどうかについて表決を行っていないのに、あたかも行ったかのような議事録になっているなら、さらに問題です。その議事録は虚偽ということになり、公益認定等委員会の立入検査を受けた場合、業務改善命令が出されかねません。業務改善命令を数回受けると、公益財団法人認定は返上させられます」

■北の湖前理事長の遺言を無視

 いずれにせよ、この理事会での一件によって八角理事長と貴乃花親方の対立は決定的なものとなった。しかし、貴乃花親方が不信感を抱き始めたのは、この時が最初ではなく、

「北の湖前理事長が亡くなってそれほど時をおかずに貴乃花親方は八角親方の本性を知ることになった。北の湖さんは八角親方に“ブレるな”という遺言をのこしたのですが、これは“九重親方の復権を許すな”という意味でした。しかし、北の湖さんが亡くなると、八角親方はその遺言を無視して九重親方と組んだ。貴乃花親方はそれに激怒したのです」(相撲記者)

九重親方

 八角親方を協会ナンバー2にまで引き上げたのは、他でもない北の湖前理事長。その大恩ある「親分」が死ぬや否や、親分の仇敵と手を組む。ナンバー3として「北の湖体制」を支えてきた貴乃花親方にとって、それは決して許すことの出来ない所業だった。他にも、

「例えば、協会関係者が北の湖さんの功績や思い出などについて語ると、八角親方は“俺の前で北の湖さんの話をするな”と言うのです。それでいて、元々、北の湖さんのタニマチだった実業家とは親密にしていたりする。そうしたことも貴乃花親方にとっては許せないわけです」(同)

 これらの出来事があった上での、先の理事会での一件。かくて2人の対立は抜き差しならないものになったわけだが、それがいがみ合いの範疇を超え、相撲界全体を巻き込んだ内部抗争の様相を呈しているのである。

「特集 『北の湖』の遺言を守らず『相撲協会』に内部抗争! 『八角理事長』の狡猾なやり口に怒った『貴乃花理事』」より

週刊新潮 2016年2月4日号掲載

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