高速増殖炉「もんじゅ」維持費に年200億円は高いのか? 資源のない日本で考える〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(1)〉

社会週刊新潮 2016年1月28日号掲載

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 トラブルが続く高速増殖炉「もんじゅ」。往年の「夢の原子炉」への期待がウソのように危険視されている。そこに原子力規制委員会の勧告。日本はもんじゅから手を引くべきなのか。正論を述べるがゆえに「御用学者」と誤解されることもある専門家が語り合った。

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 福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」。使った以上に燃料のプルトニウムが増殖する「夢の原子炉」のはずが、1995年12月8日のナトリウム漏洩事故以後、ほとんど動いていない。原子力規制委員会はついに、運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるよう、馳浩文科相に勧告した。核燃料サイクル戦略の中核が、存続が危ぶまれる事態に陥ったのだが、実際にもんじゅは危険なのか。核燃料サイクル戦略に未来はないのか。澤田哲生氏を進行役に、専門家たちが本音で議論した。

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【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 最初に、もんじゅに期待されていた役割を整理しておきます。日本が原子力に突き進んでいった根源的動機は、資源小国だからです。戦後の復興は製造業の発展に支えられ、それには大量の電力が必要で、オイルショック後、原子力を有力なオプションとして選んだ。そんな中で、日本にたくさんある軽水炉と違い、使える燃料をさらに増やして有効活用できるのがもんじゅです。日本はそこにチャレンジし、世界のトップを走っていました。すでに1兆円以上が投じられ、今後も維持費が毎年200億円ほどかかると言いますが、それは高いのでしょうか。

【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 日本には資源がないですが、核燃料サイクルをやると、もんじゅが鉱山になり、それをうまく使えば、日本は100年単位でエネルギーを心配しなくてすむ。今、原子力をやめて石炭とLNG(液化天然ガス)を焚いているので、燃料代が年間10兆円近くかかっていますが、その10%、20%でも、もんじゅ鉱山に置き換えられれば安いものです。20年前にナトリウム漏洩事故が起きなければ、今ごろもんじゅがプルトニウムを生産し、あと100年エネルギーの心配は要らない、という話になっていました。今は次の20年をどうするかを考えるべきです。

【澤田】 アメリカは昔からエナジー・インディペンデンス(自給化)を重要課題に掲げ、図らずもシェールガスが出たことで、向こう100年自給できることになった。日本も高速炉を核燃料の鉱山にできれば、自給率を上げられます。軽水炉は燃料の輸入が必要ですが、高速炉も使えば新たなエネルギー源を得られる。これは何ものにも代えがたい価値があると思います。

【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 ちょっと違った観点からお話しします。核分裂すると中性子が複数個出てきて、一つは臨界を維持してエネルギーを出し、発電するために使う。もう一つは、燃料でない物質に当てて燃料を作ることに使える。その際、スピードの速い中性子を使うので高速増殖炉と呼ぶんです。また最近、廃棄物の燃焼という価値も加わっている。高速炉には中性子が豊富にあり、臨界を維持しながら燃料を作れて、さらにゴミに中性子を当てて燃やすこともできる。もんじゅはそういう研究開発にも利用しましょう、という流れになっています。

【澤田】 高速炉1基で軽水炉数基分のゴミを焼却できる、というイメージですね。

【高木】 はい。ですからナトリウム漏洩事故を起こすまでは、電力会社も力を入れていました。発電と増殖を目的に安い高速炉を作ってやっていくんだと。

■中国とインドに抜かれた

【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 結局、ウランがなくなると軽水炉も成り立たない。そこで軽水炉が出すプルトニウムを回収し、それで高速炉を運転して、ウラン238をプルトニウム239に変えながら次の燃料サイクルに移行していく、というのが当初の目的でした。使っていないウラン238を有効活用し、人類2500年分のエネルギー供給を可能にするという壮大なプロジェクトです。ところが研究炉「もんじゅ」はナトリウム漏洩事故を起こし、なかなか動かせなくなった。10年にも金具が外れて中継装置が落ち、福島の事故でも基準が変って運転できずにいる。しかし、エネルギーをしっかり確保しようとする国は、高速炉を動かしています。

【高木】 中国はFBR(高速増殖炉)の試験炉を建設し終え、インドも出力50万キロワットのPFBR(高速原型炉)が臨界間近。ロシアではBN‒800が先日、送電を開始しました。フランスはアストリッドという工業用実証のための改良型ナトリウム炉を開発、建設する計画に精力的です。

【岡本】 先日、中国の大学に行くと、オリジナルで設計した高速炉の模型があって、大洗のJAEAで勉強した中国人准教授が熱心に研究し、中国はエネルギー源が必要なので軽水炉だけでは足りないと話していました。今、中国のエネルギーのうち原子力の割合は1%以下ですが、毎年、東シナ海沿岸に4基、5基と作っている。それでも不十分だということで、高速ガス炉や高速増殖炉などを作ろうとしているんです。

【高木】 新型の増殖炉に関しては、中国とインドに抜かれそうですね。

【岡本】 もう抜かれています。

【高木】 ベンチャーの話もさせてください。アメリカはFBRから撤退しましたが、高速中性子を使う原子炉が必要だという認識は今もあって、再処理なしにウランを効率的にプルトニウムに変えて多くのエネルギーを得る、という概念のベンチャー研究は行われています。あのビル・ゲイツが筆頭オーナーの企業、テラパワーもそういう研究を行い、中国も関心を示しています。

【岡本】 もんじゅは、いったん燃料を取り出して再処理しますが、アメリカのは取り出さずに、そのまま燃やしちゃおうというもの。本当なら3%くらいしか燃えないのを、50%くらい燃やしちゃうんです。

「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より