中国が検討を始めた“ポスト「金正恩」に「金正男」”の秘密工作

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 1月6日に北朝鮮が発表した「水素爆弾実験成功」の真偽に関しては、専門家の見解はマユツバという点で概ね一致している。一時は世界を震撼させた殺戮兵器は“張り子の水爆”だったわけだが、今回の核実験だけに限れば、最もコケにされたのは中国だろう。

 金正日政権下を含め、北朝鮮は過去3回の核実験で中国への事前通告を欠かしたことがない。ところが、今回はお目付け役であり、最大の後ろ盾でもある中国を無視する格好で核実験に踏み切った。

 何よりもメンツにこだわる中国にとって、飼い犬に手を噛まれたどころの騒ぎではあるまい。

 遡ること2年前、“中国通の改革派”で知られ、金正恩の叔父に当たる張成沢(チャンソンテク)が粛清されて以降、中朝関係の冷え込みは増す一方だった。それに加えて、今回の横紙破りの核実験である。

 産経新聞中国総局特派員の矢板明夫氏はこう言う。

「中国外務省が発表した声明から、前回の核実験の際には記されていた“各国に対して冷静な対応を呼びかける”という文言が消えました。明らかに中国政府の苛立ちが感じられます。北朝鮮が政情不安に陥っているのは明らかで、中国政府はこれ以上、現政権に働きかけることを諦めつつある。そこで始まったのが“ポスト金正恩”に向けた準備。なかでも、中国が重視しているのは金正男というカードです」

■北京市内で生活

 東京ディズニーランド観光で注目を浴びた金正男は、素人目には“北のドラ息子”といった印象が強い。だが、中国はこの金正日の長男を、ポスト金正恩の切り札と考えているのだ。実際、彼の身辺は慌ただしさを増している。

 北朝鮮ウォッチャーが明かすには、

「金正男は、少なくとも半年前から妻子と共に北京市内のマンションで暮らし始め、生活費は全て中国政府から支給されていると見られる。以前、シンガポールで愛人と同棲していた頃は、中国側が100人単位の護衛を派遣していたと囁かれています。張成沢の粛清は、金正男と定期的に連絡を取り合っていたことが原因と取り沙汰されました。金正男を北京に呼び寄せたのは、暗殺を避けるのと同時に、来るべきXデーを念頭に置いた措置です」

 金正男は周囲に、中国式の改革開放が北朝鮮を存続させる唯一の道と語っており、中国にとって利用しやすい存在だという。

「他方、祖国に対する責任感も強いため、中国はいざとなれば“弟”と首を挿(す)げ替えることを真剣に考えています。確かに、張成沢の粛清後、北朝鮮の親中派は一掃されたため、中国が水面下でクーデターを仕掛けるのは困難です。ただ、今後も核実験が続けば中国も北朝鮮を庇い立てすることはできなくなり、政権が崩壊しかねない。その結果、米韓の軍事介入を招き、数十万人の難民が国内に雪崩れ込むのは中国にとって最悪のシナリオです。そうなる前に必ず手を打つでしょう」(同)

「特集 『張り子の水爆』で『金正恩』第一書記の残日録」より

週刊新潮 2016年1月21日号掲載

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