ゴリラ1億! ライオン2500万! ホッキョクグマは“品薄状態”〈世界を股に「動物商」最前線(2)〉飯田守

社会週刊新潮 2016年1月14日迎春増大号掲載

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 ライター・飯田守氏による動物ビジネスの現場報告。福岡県・大牟田市動物園にいるアミメキリン「リン君」の“婚活”の模様をレポートした前回に続き、第2回ではお馴染みの動物たちの“相場”について紹介する。

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 日本中で子どもや家族連れを楽しませる動物園の野生動物たち。彼らはいったい、どこから誰が連れてくるのか。珍しい爬虫類から大型動物まで幅広い種類の動物を、地球のあちこちから仕入れて来るのが「動物商」と呼ばれる人々だ。

 その中の1人である白輪剛史氏(46)によれば、その価格は個体の生息数に始まり、入手や輸送、飼育の難易度や個体の大きさによって決まるという。

「東山動物園で飼育されている、オスのニシローランドゴリラ『シャバーニ』の写真集が大ヒットしていますが、動物園の中でもゴリラは最も高額の部類で、現在は1頭当たり1億2000万円が相場です。ゾウやキリンと並ぶ人気者のライオンは生息地によって評価が分かれ、アフリカライオンは1頭45万円ほどですが、絶滅が危惧されているインドライオンはその50倍以上の2500万円に跳ね上がります」

■世界的な“品薄状態”

 最近では、地球温暖化の影響で、生息数が急速に減少しているホッキョクグマの世界的な“品薄状態”が続いているという。JAZAの岡田尚憲事務局長が指摘する。

「輸入はワシントン条約で厳しく制限されています。でも、それだけでは不十分で、人間が繁殖計画を立てていかなければ、今後も生息数は確実に減っていくでしょう」

 先の白輪氏は11年8月に、この入手困難なホッキョクグマを手掛けたという。静岡市の「日本平動物園」からの依頼で、08年にロシアの「レニングラード動物園」から譲渡されたオスの「ロッシー」(当時3歳)の繁殖相手を探したのだ。日本平動物園の担当者が言う。

「ホッキョクグマの減少は地球温暖化の象徴とされ、イヌイット族の伝統的狩猟のみが認められている希少種です。今後45年間で個体数が30~50%減ると予測するデータもあり、動物園にはホッキョクグマの種族保存という役割も求められています。日本では23の施設で44頭が飼育されていますが、ちょうど良いメスが見つからず、何人かの動物商に調査を依頼したわけです」

■売却価格6000万円

 その中の1人が白輪氏だった。彼はすぐに独自のネットワークでリサーチを始め、中国の動物商を介してタイの「バンコクサファリワールド」で飼育されていた2歳のメス「バニラ」に目を付けた。

「ここでは繁殖が上手く進み、両親と4頭の子どものホッキョクグマが飼育されていました。ところが、1年の平均気温が30度近いタイでは、市民から“どうしてこんなに暑い国でホッキョクグマを飼っているんだ”という批判が少なからず寄せられていたのです。そんな不人気が背景にあって、バンコクサファリワールドは譲渡に応じてくれました。ただ、輸送コストなどの諸経費を考慮すると、売却価格はそれまでの1頭当たり3000万円の相場を大きく上回る6000万円という前代未聞の額になってしまいました。あまりに高いので、正直“売れるかなあ”と思いながら動物園に値段を伝えました」

 一方の日本平動物園は、

「年々、飼育頭数を減らしている国内のホッキョクグマの中で、ロッシーとバニラは一番若いペアとして繁殖が期待できる」(担当者)

 との理由で市の財政課の了解を得ることができ、それによって5969万円の購入代金を予算化し、バニラの嫁入りが実現した。

 思いもよらない高額での取り引きに、白輪氏も信じられない思いだったという。

「この取り引きで、ホッキョクグマの相場が一挙に2倍に跳ね上がってしまいましたからね」

 動物ビジネスの世界では、取り引き情報が瞬く間に世界の動物商にもたらされる。そのため世界のあちこちで成立した商談の中で、最も高値のついた取り引き価格がその後の相場として定着する傾向がある。

 つまり、図らずも白輪氏の取り引きによってホッキョクグマの価格が高騰したワケだが、これを同業他社は“ビッグビジネス”と捉えた。その最たる例が、先の中国の動物商である。

「各国の動物園への転売を目論んだのか、すぐさまバンコクサファリワールドに残された5頭を全て“爆買い”したのです。後から聞いたところでは、多くが中国に渡ったといいますけどね」(白輪氏)

「特別読物 ゴリラ1億! シャチ5億! 世界を股に『動物商』最前線――飯田守」より

飯田守(いいだ・まもる)
昭和29年、徳島県生まれ。東京写真大学(現・東京工芸大学)短期大学部卒業。講談社「月刊現代」「週刊現代」の記者を経てフリー。芸能、プロスポーツ、財界などを中心に取材・執筆を手掛ける。