衆参同日選挙をうそぶく自民重職たち 狙いは野党統一候補への“牽制”か

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 憲政史上、衆参同日選挙が行われたのはわずか2度。そこに、今夏の参院選が「3度目」になりそうだと言い募る議員が相次いでいる。いずれも政権与党の重職にある面々ゆえ、真意は理解に苦しむところだが、解散権を専有するトップの身上も盤石ではなさそうで――。

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 4日に通常国会が召集されると、待ちかねたように口火を切ったのは、自民党の佐藤勉・国会対策委員長だった。

「6日、都内で記者団を前にして『我々は常在戦場だから、(同日選が)全然ないというわけではない』と、さっそく可能性を匂わせたのです」(全国紙政治部記者)

二階俊博総務会長

 続いて9日には、二階俊博総務会長が講演先の和歌山市で、

〈(同日選に)賛成か反対かといったら、私は従来通り反対だ〉

 としながらも、

〈(安倍政権が)同日選をしたいと思っているのは間違いない〉

〈(難色を示している公明党も)「解散だ」と言われれば「やろう」となる〉

 等々言い放ち、さらに翌日、今度は稲田朋美政調会長がテレビ番組などで、

〈可能性は否定できない。(総理が)信を問うべきだ、と判断されればあると思う〉――。

 さかのぼれば、昨年11月28日にも国対委員長は講演先で、

〈来年ダブル選があるかもしれないから甘く見ないほうがいい〉

 などと発言。その翌日、

〈色々な可能性がある〉

 そう述べるにとどまった谷垣禎一幹事長もまた、2日後の記者会見では、

〈衆院は昔から常在戦場。いつ選挙があるかわからない〉

 やはり使い古されたフレーズで、可能性に言及していたのだった。

■越権行為

 さる政治部デスクが振り返る。

「その同じ日、閣議後の会見で岸田外相が『解散などは総理の専権事項で、総理が判断されること』と述べ、流れを押しとどめようと努めていましたが、焼け石に水。一気に憶測が駆け巡る端緒となったのは間違いありません」

 専権を有する安倍総理自身は、4日の年頭会見で、

〈(同日選は)考えていない〉

 と述べ、10日のNHK番組でも重ねて否定。同席した公明党の山口那津男代表も、

〈(同日選は)一般論として得策ではない〉

 あらためて立場を言明したのだった。

 そうした与党の片言隻句が夏まで効力を有するか否かは措くとして、解散権とは、いかな党三役や国対委員長といえど、あれこれ横槍を入れられる性質のものではあるまい。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏が言う。

「永田町では、記者から質問が出ても、『解散は総理の専権事項なので分かりません』というのが常識です。にもかかわらず、党幹部らがあちこちで『ダブルだ』と言い出しているのは実におかしな話。総理は一応、公的には『まったく考えていない』としているわけで、周囲が『あるかもしれない』などと口にするのは、一種の越権行為でしょう」

■発言の裏にある“狙い”

 それを承知でなお解散云々などとうそぶく姿は、さながら“オオカミ熟年”の如し。

「二階さんの場合は狼でなくタヌキ。化かされないようにしないと……。発言の裏にある狙いの1つは、まず野党統一候補への“牽制”でしょう。現在、参院の山形と熊本選挙区では野党がほぼ統一されており、このままいけば10選挙区程度で成立する見通しです。一人区で統一候補が立つと、さすがに自民も取りこぼす恐れがあるため、これに対する手段というわけです。そもそも、今からダブル選なんて決め打ちできるはずがない。その時点で内閣支持率が下がっていたら目もあてられず、だからこそ他の意図があると考えるべきです」(同)

 狙いの2つ目としては、

「同日選を煽ることで、衆院議員に『真面目に参院選に取り組め』というムチを打つ効果が期待できます。『自分たちも選挙になるかもしれない』と危機感を持たせ、支援に繋げるわけです。換言すれば、それだけ『参院選なんて勝手にどうぞ』と考えている代議士が多いということです」(同)

 と言うのだが、党内の風紀については政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏も、

「佐藤勉さんや二階さんは党内の緩みを引き締めるために言っているのでしょう。実際に、年明けの委員会で猪口邦子議員が1時間以上の大遅刻をしたり、また本会議に遅れる議員もいた。これは氷山の一角で、党内には『300人にまで増えるとおかしなことが起きるから、衆院は270ぐらいが適正なのでは』と言う人もいるくらいです」

 ちなみに稲田政調会長については、

「発言の意図は不明で、自身の存在感を高めたいのかもしれません。いずれにせよ、最近の安倍一強体制のもと、恩恵にあずかる人たちがめいめい『何かに利用できそうだ』と考えて発言しているわけです」(同)

 つまりは、およそ品性高潔とは程遠い振る舞いが繰り返されているのである。

「特集 いつか有権者が相手にしなくなる 衆参同日選挙をシャウトする永田町の『オオカミ熟年』」より

週刊新潮 2016年1月21日号掲載

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