行事 ホテル 警備……「天皇陛下」フィリピンご訪問に深刻なる準備不足

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 その間、実に半世紀以上。天皇皇后両陛下は、年が明けて1月26日からフィリピンへと外遊される。前回は皇太子時代の1962年で、歴代天皇では初めてのご訪問となるのだが、性急な日程調整のおかげで、あろうことか準備不足が露呈してしまったというのだ。

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天皇皇后両陛下

 直近の各種国際調査によれば、日本に肯定的な感情を抱くフィリピン国民の割合は、いずれも80%を超えている。

 来年は、そのフィリピンとの国交正常化から60周年という、節目の年である。

「6月に来日したベニグノ・アキノ大統領が、陛下に直接お招きの言葉を伝え、国賓としての親善訪問が決まりました。陛下ご自身も、かねてからフィリピン再訪を強く望んでおられたのです」(宮内庁担当記者)

 国際親善とともに陛下が絶えず心を砕かれてきたのは、言うまでもなく戦没者の慰霊である。

 皇室ジャーナリストの山下晋司氏は、

「陛下の外国ご訪問は、国事行為に準じた公的行為にあたるため、やはり内閣の助言と承認を受ける必要があります。いつどんな形でどちらにおいで頂くかについては、ご意思に適うことは当然としても、内閣の意向が働かないはずがありません」

 としながら、

「そんな中、陛下の強いご意思で決まったとも言えるケースが、わずかながらあります。それが戦没者慰霊。つまり、戦後60年を迎えた2005年のサイパン島、および70年目であった今年のパラオご訪問だったのです」(同)

 今回の名目は親善活動。その一方、フィリピンでは海外地域別で最多となる52万人の日本人が犠牲となっており、かの地で両陛下は、日比両国の慰霊碑をそれぞれ訪ねられるご意向だ。が、

「時節柄、陛下のお気持ちとは全く無縁のところで、南沙諸島をめぐって中国と対峙するフィリピンと関係を強め、中国を外交的に孤立させたいという日本政府の思惑も透けて見えてしまいます。思えば13年11月のインドご訪問もまた、チャイナリスクを退けてインドに期待を寄せる政府の姿勢と、結果的に軌を一にしてしまった。今回の外遊も、ともすれば政治色を帯びてしまわないとも限らないのです」(同)

 もっとも、そうした懸念は肝心のご訪問がつつがなくなされたのちに生じるものであろう。翻って現状はといえば、何と「準備不足」が顕在化しつつあるというのだ。

「6月のアキノ大統領直々のお招きに先立ち、両国の間では、節目の年のご訪問についての“合意形成”がすでになされてきました」

 そう明かすのは、さる外務省関係者である。

「安倍総理とアキノ大統領は13年から今年6月までの間、フィリピンでの1回を含めて計4回、往来して会談を持っています。その中では、複数回にわたり陛下ご訪問に話題が及び、実現に向けて意見の一致をみていたのです」(同)

 にもかかわらず、

「実際に計画が立ち上がるまでに時間がかかり過ぎました。菅官房長官は10月13日の会見で、初めて『両陛下のご訪問を調整中』であると公にしました。ところが、来年5月にはアキノ大統領の任期満了に伴う選挙が控えており、2月早々には選挙戦が始まってしまう。すでにこの時点で、時期としては1月しか選択肢が残されていなかったのです」(前出記者)

 先方のそうした事情を酌めば、なおのこと周到な準備が求められるはずだったのだが──。

 先の記者が続ける。

「そもそも両陛下の外遊となれば、通常は3カ月前には閣議決定がなされてしかるべきです。それが今回は12月4日と、あまりに遅すぎました」

 そのあおりを受け、まさに泥縄式の対応が続いているのだという。

「決定の前日には庁内でレクがありましたが、その中で式部官長は、4泊5日にわたる日程の詳細が、まだ決まっていないと明かしたのです」(同)

 行程の初日と最終日は移動のみ。両陛下のご負担を勘案し、無理のないスケジュールが組まれる予定ではあるが、

「現時点で確定している行事は、歓迎式典と大統領との会見、そして宮殿での晩餐会。加えて、フィリピン独立運動の英雄である『ホセ・リサール』像への供花と、4つのみ。これに陛下のご意向である日比双方の『比島戦没者の碑』『無名戦士の墓』での慰霊が盛り込まれますが、あとはまるで流動的なのです」(同)

■「心配いりません」

 スケジュールが定まらない原因は、ひとえに現地との調整が捗っていない点にある。さる宮内庁関係者が漏らすには、

「先月までAPECの首脳会議がフィリピンで開かれていたこともあり、マニラの大統領府や警備当局との打ち合わせが全然できていないのです。両陛下や記者団が宿泊するホテルについても、現状ではいまだ決定に至っていません」

 すでに11月には「第1次先遣隊」が下見に出発しており、目星はつけてあるというのだが、

「こちらはあくまで招かれる側なので、行事や動線の警備ともども、招く側の事情を聞かなければ何ひとつ決めることはできません。今月中旬には第2次先遣隊が現地入りするので、帰国次第、どうにか御用納めまでにはメドを付けたいところですが……」(同)

 一連の“滞り”について、陛下の側近トップである河相周夫(ちかお)侍従長に聞くと、

「全然バタバタなどしていませんよ。異例の事態でも何でもなく、すべて順調に進んでいますので、何も心配いりません」

 そう繰り返すのだが、前出の山下氏はこう指摘する。

「1月は、ただでさえ講書始や歌会始など、宮中行事が目白押しです。陛下におかれては、ご訪問前に国情をお知りになるため調べ物などの準備もあるでしょうが、年末年始を挟み、いっそう時間が削られてしまうものと拝察されます。こうした慌ただしい状況は、御身にとっても大変なご負担となるのは間違いありません」

 現に、23日に迎えられるお誕生日に際しての記者会見では、ご負担を考慮して今年から質問数がわずか1問へと減らされているのだ。

 御立ち前の喧騒を経てもなお、両陛下の旅の安寧を願わずにはおれない。

週刊新潮 2015年12月17日号掲載

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