【データが証明】学力低下の元凶は「スマートフォン」だった――白石新(ノンフィクション・ライター)

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■脳の活動が低下する?

 川島教授は、嘆息をまじえてつづける。

「これまでは、勉強時間や睡眠時間がスマホによって奪われ、学力低下をまねいていると思われていました。しかし、一定時間勉強をしている子の成績も、スマホを使う時間が長いほど低下することが判明した。さらには、日ごろほとんど勉強をしない子の場合も、スマホをやっている子の成績のほうが低下するというデータが得られた以上、スマホが学力に直接的な影響をおよぼしている可能性は高いと言わざるをえません」

 ただでさえ勉強しないのに、スマホをいじってさらに成績が下がるとは、親が気が気ではないのは当然だが、この国の将来まで心配になるではないか。

「本来なら、ここから猿やマウスを使って実験をつづけるのですが、残念ながら彼らはLINEなどにはまらないので、それは叶いません。今後、LINEなどを使用する際の人の脳の血流を調べていきますが、現時点では、脳の中でおこる現象が、テレビを見ている時に似ているのではないかと考えています。すなわち、脳の前頭前野と呼ばれる部分に抑制がかかるのではないかと。すると、血流が下がって脳の活動が低下するのですが、スマホでLINEなどに没頭している際も、脳内で同様の現象がおこっているのではないか。脳の血流の低下が見られるということは、シナプスあるいはミトコンドリアのレベルで反応があって、脳のはたらきを低下させている可能性があるのです」(同)

 もちろん、スマホを持っていても、学力が下がらない子どもたちもいるにはいる。同調査でも、

「スマホを所有し、なおかつ使用時間が1時間未満の子どもたちの間では、勉強時間が長いほど成績がよくなる傾向が出ました。スマホも上手に気分転換に使えば、必ずしも学力低下につながらないわけです」

 と、川島教授。諸刃の剣とまでは言わなくとも、スマホも使い方次第ということなのだろう。それでも教授は懸念する。

「もともと勉強が苦手な子どもたちがスマホを手にしたため、こうした結果になった、スマホのせいではない、という声もあるでしょう。しかし、それでは家庭でほとんど勉強しない子ども同士を比較しても、スマホを長時間使う子のほうが成績が圧倒的に悪い、という結果に説明がつきません。子どもたちは危険にさらされている。抑制力が弱い子どものためには、お酒やタバコと同様、ある種の規制を考えていく必要があるのではないでしょうか」

 実は、その必要性は、すでに国内外を問わずさけばれている。

 今年、ロンドン大学経済政治学院が発表した調査結果によれば、スマホを学校に持ち込ませないことで学力格差が縮小する、と判明したという。

 イギリスの91の学校の生徒、約13万人を対象にしたこの調査は、16歳で受ける全国統一試験の結果と、学校における携帯電話に関するルールの変更との関係を調べたものだ。それによると、すべての学力グループで、スマホの学内持ち込みを禁止することで成績が向上する傾向が見られたという。なかでも学力が一番低いグループの場合が顕著で、成績の伸び率指標は、他のグループの倍以上も高くなったのである。

 また国内では、東大や難関医学部進学率が全国トップクラスの進学校、兵庫県の灘中・高校でも昨年、スマホの利用が制限されるようになった。同校は自由な気風を重んじ、校則がないことでも有名だが、スマホに関しては、生徒の自主性にまかせるには限界があったようだ。いま、こうした名門校でも、スマホ規制は続々実施されている。

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